最近、彼のことを考えると他のことが考えられなくなっている。  彼とは魔法の森の入り口に店を構えている、道具屋の店主のことだ。名は森近霖之助。  外の世界に興味を持ち、外の世界の道具を店に置いているため、私は彼のことを危険視している。  外の世界の道具は扱いを間違えれば、幻想郷に破壊をもたらす可能性を秘めているものが多いからだ。  今はまだそのようなものは扱ってはいないが、彼がいつそのようなものを無縁塚から拾ってくるか分からないため、私が直々にその道具を見に行き、危険がないかを確かめている。  彼にも能力がある。『未知のアイテムの名称と用途が判る程度の能力』だ。  名前と使い道が分かる能力らしいのだが、使用方法が分からないという、なんとも中途半端な能力なのだ。  例えば『本』を手に取ったとする。  彼にはまずは目で名前が分かり、名前を口にすると使い道が分かるという。  と言っても本であればただ読むことしか出来ないだろうし、よほどの魔導書などでない限り、危険性はほぼないと言っても過言ではない。  外の世界に魔法なんてものを信じているものはほとんどいないし、魔導書がゴロゴロとしているかと言われるとそうでもない。  だから彼が本を拾ってきたとしてもタイトルさえ見てしまえば危険か危険じゃないくらいは分かる。  そんな彼の持ち物で大事そうに保管をしているものがある。それは草薙の剣だ。  あれは使い手が必要になるわけなのだが、幸いまだ剣は彼のことを使い手として認めてはいない。  もし認めてしまえば、それはもう幻想郷、いや世界の終わりと言っても過言ではない。  それほどの力を秘めている剣なのだ。  彼がどのようにして草薙の剣を手に入れたかは分からないが、それを彼が持ち続けている限り、私は幻想郷を管理しているものとして、彼を危険視し続けなければならない。  前に一度、自分の式神である藍に剣を譲ってもらうもしくは売ってもらうために仕向けたことがあった。 しかし結果は惨敗。  むしろ藍が彼とフラグを立てたのか、呼び方が店主殿から霖之助さんに変わっていた辺り憎らしく思える。  ……べ、別に悔しくなんかはない。断じてない。先を越されたとも思ってなんかいない。  しかしこちらには武器があるのだ。彼の店にはストーブと呼ばれる外の世界の道具がある。  あれは寒いときにつけると部屋の中が暖かくなるという優れものだ。  私の家にもあるのだが、生憎なことに炬燵で事足りてしまっているため、倉庫の奥のほうに仕舞っている状況だ。  ストーブには灯油と呼ばれる油が必要不可欠で、それが切れてしまえば当然ながら補充しなければならない。  私は外の世界と幻想郷をある程度自由に行き来出来るので切れたとしても補充は出来る。  だが、彼にはそれがない(補充するためのモノが多くはないのだ)。  灯油に代用出来るものはそう少なくはないが、多くもない。  なのでいつか彼は霊夢、もしくは魔理沙を通じ、私を訪ねに来るかもしれない……そんなことを思っていたある時のことだ。  ゆらりと世界が揺れた。