今朝、私は何時ものようにお茶と茶菓子を求めてここ香霖堂に足を運んだ。  扉を開いた先には、カウンターに鎮座して、これまた何時もの様に「ツケを返せ」と返して来たこの店の主、霖之助さん。  「賽銭が入ったら払うわ」と毎度おなじみの返事を試みたものの、今回は通用しないらしい。  どうやら以前頼んで置いた新しい巫女服の金額を含むと、どんな経営をしているか怪しい彼の帳簿に限界が訪れるようだ。  出せないならば体で払え、と交換条件として提示されたのは、彼が最近までに収集した道具の片付け。  丁度商品を棚卸しする気だった様で、私は渋々手伝う事にした。  彼に案内された部屋を覗くと、高く積み上げられたガラクタ、もとい道具が出迎える。  最近は収穫が多かったと聞いては居たけど、流石にコレは集めすぎだろう。  取り敢えず手近な物から手を付けたが、どれも手間がかかる物ばっかり。  長い間風雨に晒された物も多いから、そこら中汚れだらけになってしまった。  移動させる度に、数々の埃や塵が風に乗って、店の窓から漏れ出している。  一向に終わりの見えない作業に、思わず悪態を着いてしまう。 「ったく……なんでこんなに埃が多いんだか、もう!!」 「おーい、棚の掃除はまだかい霊夢」  私の苦労を気にも留めず、当の霖之助さんは呑気に声を掛けて来た。 「ちょっと霖之助さーん!? こんなに汚いなんて聞いてないわよ!!」  怒り半分の声に流石に気になったか、山の反対側から顔を覗かせて来る。 「当たり前だろう、古道具なんだから。ある程度は汚れていて当然……」 「それにも限度があると思いまーす」  じっと彼を睨みつけると、埃まみれの巫女服に気づいたのか、チラリと明後日の方向に目を逸らした。 「……まぁ、頑張ってくれ。僕はちょっと倉庫に行ってくるよ」  そう言って立ち上がった彼が、部屋を出て行こうとする。 「ちょ、ちょっと待ってよ、まだこんなに沢山残って……おわっ!?」  慌てて引き留めようとしたが、ぶつかってしまった拍子にバランスがくずれたか、ドサドサと音を立てて崩れだした目の前の道具たちに、行く手を阻まれてしまった。 「そこで待っていなさい、ついでに新しい巫女服を持ってくるから」  そう言って埃を払いつつ私の頭を軽く撫でると、彼は居間の方へ向かっていった。 「げほっ、げほっ……っもう!!」  そして咳き込みながら周囲を見ていた時、私はそれを見つけた。 「うへぇ、口に入った……て、あれ?」  周りに散らばった道具とは明らかに違う、綺麗な桐の箱。お札まで張ってある。 「……気になるわ」  少なくとも変な術の類は掛かっていない。私の勘もそう告げている。 「……霖之助さーん? これ開けるわよー?」  見られていた時に、「ちゃんと声を掛けた」という言い訳が立つ、もしもの保険。 「……コレでいいわ。それっ」  蓋を取って包み布を開くと、少し甘い匂いが辺りに広がる。 「あ……」  仕舞われていたのは、私が着ている物より小さくて継ぎ接ぎだらけの、巫女服。  思わず懐かしさに駆られて、そっと指で触れてみた瞬間。  私の意識は吸い込まれた様に、するりと途切れてしまった。