「あら、こんなものも仕入れてるんですか」  その日香霖堂には、今では珍しくもなくなった、大きな九つの尻尾を持つ少女が訪れていた。  八雲 紫の式にして、九尾の少女。八雲 藍である。  紫が香霖堂へたまに来るようになったのをきっかけに、そこそこ上等のお客として、常連となった少女である。  何より、紫のように商品を回収したりせず、礼儀正しく、ちゃんと買って行ってくれるのが何よりもいい。  数少ないまっとうなお客と言えた。  主人とは大違いだ、声を大にして言えないのがつらいところだが。  そんな彼女が手に取ったのは、大きめの紙。  その紙には、五十音でひらがなが書かれていた。  かといって普通のあいうえお表なのかというと当然そうではない。  五十音の上、紙の右上・左上に書かれた『はい』・『いいえ』『男』・『女』の文字と、その中央には神社の鳥居と思われる象徴が描かれている。  普通のあいうえお表には、こんなものを書くはずが無い。 「霖之助さん、これがなんだか知っていますか?」  名前を呼ばれた僕は、その紙を手に持ってなんだか嬉しそうにしている藍からの質問を受け取り、本から顔を上げた。  何か、と聞かれれば。わからなくはない。 「知っている、こっくりさん、に使う紙。だ」  すると藍は少し驚いた表情を作った。  が、すぐに何か思い当たる節があったらしい。 「ああそうでした、霖之助さんは名前だけはわかるんでしたね」  その言葉に少しムッとした。  それではまるでこっくりさんを知らないのに、名前だけは知っている見たいな言い方だったからである。 「失敬な、ちゃんと知っているよ。こっくりさんがどういうものかぐらい」  そもそもこっくりさんとは、幻想郷が結界で閉じられる以前か、ぎりぎり同時期ぐらいにこの国へ伝播してきた代物である。  もともとは西洋式の占いであったものが、和風に変化したものであり。  成功すると、『こっくりさん』という霊がいろいろと質問に答えてくれるらしい。  が、実のところそれはただの催眠にかかってそう思うだけであり、別に霊魂が降りてきてくれるわけでなく。  単なる占い、おまじないの一種である。  ……そんなようなことが本には書かれていた。  そんな僕に、藍はそっと探るように尋ねた。    「…………でも、やり方はわからないんですよね?」  「本でどういうものなのかは読んだがね」  それは真実である。  しかし、やり方に関しては質問に首肯せざるをえなかった。  こっくりさんについて書かれたその本は、心霊現象の真実特集とかいう感じの本で、こっくりさんにまつわるあれこれは書かれていたが、肝心のやり方に関しては詳しい記述が無かった。 「仕方が無いですね、なら私が教えてあげましょうか。その方が便利ですし」  微笑みながら藍が言った、どこか楽しげである。  僕がやり方を知らないのがそんなにおもしろいのだろうか。  しかしこの『こっくりさん』とは、(前述の本によると)外の世界では一大ブームを巻き起こしたもの、であるそうだ。  高度な文明を持った外の世界ではやった占い、である。  やり方を知りたくないと言えば嘘になる。  ひょっとすると高度な占いなのかも知れない。