「ふぅ……」  と、僕は大きく息を吐いた。  今日は午後から、ちょっとした用事で人間の里に出かけていたのだが、思いのほか時間を喰ってしまったのだ。  まぁ、道具話に華が咲いてしまったのは、僕のせいでもあるし、話し相手の雑貨屋店主のせいでもあるのだが……お互いに文句を言える筋合いではない。  こうして、お互いに意見交換を出来るというのは、ことさら商売人にとっては有益なものだ。  まぁ、僕の店にはずっと閑古鳥が住み着いているのは、なかなかに大問題なのだがね。  僕こと森近霖之助は、すっかりと落ちてしまった太陽を慮って苦笑した。  本当は、彼がまだ山の上にいる頃に帰る予定だったのだ。  それがすっかりと隠れてしまっている。  まったくもって、僕は嘘つきという事になってしまうのだ。 「はぁ……」  香霖堂の入り口で、僕はもう一度ため息を吐いた。  少しばかり、楽しみな様な、それでいて憂鬱な様な、そんな複雑なため息。  この気分を伝えるのは、少々複雑な説明をしなければならないので、割愛する。  僕は、少しの覚悟を決めて、香霖堂入り口のドアベルを鳴らした。  カランカラン、という聞きなれた音に混じって、聞きなれた声に聞きなれない言葉が僕の耳に届いた。 「おかえりなさいませ、旦那様」  勘定台の上で、器用に三つ指をつく蓬莱山輝夜がそこにいた。顔をあげてニコリと笑う。  思いのほか、メイドカチューシャが似合っている。そう、彼女は今、メイド服を着ていた。  どうやら紅魔館で借りてきたらしい。  というか、その場所で正座するという努力はどういう具合で思いつくのだろうか。  一度、聞きただしてみたいものだ。面倒なので、止めておくけど。 「た、ただいま……」 「遅かったですね。言われていた時間と違うものですから、心配で心配で……」 「ついつい店主と話が弾んでしまってね。悪かったよ」 「いえいえ、私の事など構わないでください。今日の私は、あなたの物なんですから」  うふふ、と輝夜は艶っぽく笑った。  まったく……恐ろしい。  この笑顔に騙されたら、明日から何をされるか分かったものじゃない。  僕は、大きく息を吐いてから、なぜこうなったのか思い出して、頭をふった。