いつもは大抵物静かで、昼は子供の遊ぶ声と決まった時間の読経の声だけが響いている命蓮寺の境内に、夜となった今は大小様々な声が実に楽しそうに響き渡る。  博麗の巫女と妖怪の山の巫女の主催により、寺を会場として開かれた酒宴は、既に最盛を迎えるくらいの時間が経っていた。  酒が進んでいたこともあり、場の雰囲気は盛り上がり続ける一方であった中、この寺の主である白蓮からは、笑い声でも喚き声でもなく感嘆に似た溜息が漏れていた。 「そうなんですか……。やっぱり、あなたは店主さんをよく知ってらっしゃるんですね」 「ああ、まあな。香霖とは、私が子供の頃からの知り合いだからな」  ふふん、と誇らしそうに、いつもの白黒の格好をした普通の魔法使いは薄い胸を反らした。  ――中心となっている二人とプラスαが話しているのは、今はこの場にはいない、魔法の森の入り口に住んでいる変わった半妖店主、森近霖之助についてだった。  人間と妖怪の融和を説く白蓮からすれば、霖之助の存在は文字通り過ぎるほど、彼女の理想の体現であった。  それ故かどうかは定かではないが、日頃から機会があれば様々な相手に対し、霖之助について尋ねている白蓮であるが、今回は恐らく、その質問の相手としては本人の次くらいに適任であったと言えるだろう。  そんな白蓮に、魔理沙はごそごそとポケットからミニ八卦炉を取り出し、それを何か宝物を見せる子供のように、周りへと示した。 「色々あって実家を飛び出した時も、直接ではないけど面倒は見てくれたからな。このミニ八卦炉も、香霖から貰ったんだ。その後も修理とか改良してくれたりもするし、今じゃ手放せない一品なんだぜ」 「……その話、この場だけでもう四回目だぞ、白黒」  たまたまその近くにいたプラスα――ナズーリンは、自身が口にした回数分繰り返された同じ会話に辟易しつつ、言った。  ちなみに、魔理沙がポケットからミニ八卦炉を取り出し、それを皆に自慢げに示した回数も同じである。 話し終わった都度、几帳面にもポケットに戻しているのだ。  その所作だけで、その八卦炉が魔理沙にとって余程大切なものなのだろう事は容易に想像がつく。  ――だが、それは別にどうでもいいことだ。  そんなことよりも、いくら酒が入っているとは言え、一体何度同じ事をすれば気が済むのか、という方が問題である。  ほとほと飽いていたナズーリンだが、魔理沙はその言葉に気を悪くするでもなく、むしろ今ようやく気付いたかのように小さく首を傾げただけだった。 「お? そうだったか? まぁでも別にいいだろ。香霖と言えば道具、その道具でも抜きん出てるのがコイツだってだけの話だからな。普段は外に出ない香霖を少しくらい宣伝しておこうっていう、親切心みたいなもんだ」 「……こと、この命蓮寺に限っては、その宣伝もある意味不要だとは思うがね」  宝塔紛失の一件以来の繋がりから、頻繁とは言えないまでも香霖堂を利用している命蓮寺では、霖之助の道具の扱いという一点においては皆が確かな評価をしている。  そのため、道具についての造詣が深い事を宣伝するのであれば、それはもういらないくらいに十分と言ってよかった。  ――しかし、今そのマジックアイテムの話を聞いているのは、魔理沙と同じ魔法使いである白蓮という点で、いつもと反応が違っていた。 「なるほど……これも、あの店主さんが作ったものなんですか。私は道具の作成技術については然程詳しくはありませんが、それでもこれだけの魔道具を作る事が出来るのは相当ですね。店主さんの魔法への造詣の深さには、目を見張るものがあるように思います」