朝早く目が覚める。
目覚めはとてもよかったと言っておこう。
なぜなら今日は待ちに待ったヴァレンタインデーだからだ。
決して期待をしているわけではないが、やはり学校に向かう途中でも胸が高鳴るのが自分でも分かる。
それほどまでに僕はチョコをもらえることを期待していた。

…………
どうやら早く来すぎてしまったらしい。
人っ子一人として教室内にはいない。
「はぁ……」
溜息を一つ。
まずは第一関門の下駄箱はなかった。
(早く来すぎたことには気がついていないらしい)
次は手渡しまたは帰りの下駄箱にどかどか入っているはずだ。
それに期待していた。
そのため、昨日有紀寧ちゃんにおまじないを教えてもらい、かけた。

その内容は手をハートの形にして、呪文を三回唱えると言う実に簡単なものだった。
まあ、呪文を唱えるのは難しかったが……。
「ウヨシデルナニチニイイシガソイハタシアウヨシデルナニチニイイシガソイハタシアウヨシデルナニチニイイシガソイハタシア!」
舌を噛んだらそこで終わりと言うわけで僕はそれまでこんなにも緊張したことがなかった。
サッカーをやっていたときでもこんな緊張したことはないだろう。

今の時刻は8時、少しずつだが人が教室に入ってくる。
入るたんびにびっくりしたという表情を誰もが見せる。
まあ本来なら僕はもっと遅い時間に来るからね。

予鈴ギリギリ岡崎がやってきた。
「おまっ、来るの早いな。そんな期待するともらえなかったとき落胆が大きいぞ」
「ふんっ、岡崎見てるがいいさっ!僕の実力を」
「おうっ、期待してお前がもらえないことを祈ってるな」
「そんなこと祈るなよっ!むしろもらえるよう祈っとけよ!」
岡崎のボケに僕がツッコミ完璧なタイミングだった。

「あの……」
消えそうな声が後ろから聞こえた。
「どうした? 藤林」
「あ、いえ、今日は岡崎君に用ではなく、春原君に用があるんです」
「なにっ!?」
「え? なになに、委員長。まさかチョコとか?」
チョコという単語に反応して、委員長の顔が赤くなっていく。
「ま、まじかよっ!岡崎見たかっ!」
「う、嘘だろ!? 正気か? 藤林。こんなバカにチョコなんて」
「春原君はバカではありません! あ、えと……」
おおきな声を出したので視線が自然と集まってくる。
「とりあえず、受け取ってくださいっ」
机の上にポンと置かれて教室から走り去っていく委員長。
「よっしゃぁ〜〜!!」
雄たけびをあげると同時に頭に何かがあたる。
「陽平っ! あんたうっさいわよ! 隣まで丸ぎこえじゃない」
「あ、あんたって人はどうして……。まあ今の僕はなんでも効かないからね」
「なんでよ」
「チョコパワーさ」
言った途端にこいつはなにをいってるんだという顔をされた。
「まあ、いいわ。あたしからもあげるわ。はい」
机にドンと投げ込まれた包み。
まさしくチョコだった。
「なあ、俺には?」
岡崎にはなぜかなかった。
「ああ、ごめん。それ一つしか作ってないのよ。ごめんねぇ〜?」
と言って教室から風のように去っていった杏だった。
岡崎は真っ白に燃え尽きている。


時間が過ぎるのがこんなにもはやいとは思わなかった。
教室を出ると、渚ちゃんと会った。
「あ、春原さん。これどうぞ」
渡されたのは、丸型の包み。
「開けてみてください」
言われるがままにあけてみるとそこには丸いチョコにホワイトチョコが上に粒粒と振りかかっていた。
「私の特製のアンパンチョコですっ」
恥ずかしかったのかそれだけ言って走り去ってしまった。

また散策していると、風子ちゃんに会った。
「春原さん、どうせチョコをもらってないんだろうと思って風子、おねぇちゃんにおそわってチョコを作ってきたんです。どうぞ」
渡されたのはいつものヒトデ……ではなくヒトデ型のチョコだった。

さらに散策していると、智代ちゃんに会った。
「春原、これをお前にやろう。ありがたいと思え」
チョコを渡された。
どうやら手作りのようだ。

演劇部の部室に足を運ぶと、一ノ瀬ことみの姿が会った。
「春原君じゃ、あーりませんか。……とりあえずこれを贈呈するの。結構自信作」
チョコをもらった。

資料室に行ってお礼を言おうと思ったので足を運ぶことにした。
「あ、いらっしゃいませ〜。春原さん。今日はどうされましたか?」
「ありがとうね。有紀寧ちゃん。おまじないのおかげで今日はいい思いが出来たよ」
「そうですか。それは良かったです。それでは最後に私のをどうぞ」
そういって渡されたチョコもおいしかった。


明日もいい日でありますように……


「と言うめっちゃいい夢を見たんだよ!」
そう、今までのは夢話だ。
「あっそ。明日はその夢通りになるといいな」
「なるさ。今の僕は最強さ」


まあ夢は夢だったとだけ評しておこう。

 

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