私は待っています。
彼を大事な恋人を……。

陽平君とは恋人関係です。
それは寂しいからとか誰でも良かったという訳ではありません。
ちゃんとした理由があるんです。

それはちょっと前のことです。
私と朋也君……いえ岡崎君と付き合っていました。
でも、ある日噂が学校内に流れていました。
『岡崎朋也と藤林杏が付き合っている』

それは信じたくはありませんでした。
しかし、岡崎君は噂など知らない様子でお姉ちゃんにズカズカと近づいていきます。
しかし、お姉ちゃんは岡崎君を突き放すように話しています。
その姿は苦しそうでした。
そこで分かってしまったんです。
ああ、お姉ちゃんも岡崎君のことが好きなんだということを……。
私はお姉ちゃんを問いただしました。
「お姉ちゃん。朋也君のことが好きなんでしょ?」
いきなり確信の言葉をお姉ちゃんに投げかけます。
お姉ちゃんはそれを否定します。
「どうして? 椋の恋人を好きになったらおかしいでしょ?」
「そうかな? お姉ちゃん、嘘ついてない?」
「っ!! そんなわけないじゃない」
力いっぱい否定はしているもののなぜか嬉しそうにも見えた。
「嘘っ!」
いきなり大きな声を出したのかお姉ちゃんはびっくりしている。
「本当にそう言える? 自分の気持ちに偽りはない?」
それは自分にも言えることだ。
たしかに岡崎君のことは好きだ。
この気持ちは本物だろう。
しかし、それは多分恋での『好き』ではなく憧れていた『好き』なんだと思う。
「分かってるんだよ? お姉ちゃんが朋也君のこと好きだってことは……」
「そんなわけ……」
「逃げないでよっ! 自分の気持ちに素直になってよ!」
「!」
「分かってるんだから……だって双子だもん」
そう、お姉ちゃんが岡崎君のこと好きなのは分かっていた。
だから素直になって欲しかった。

「あ、あたしは朋也のことが好き。あたしは朋也のことが好きっ!」
やっぱりそうだったんだね。
分かっていたことだった。
付き合っているうちに岡崎君が私ではなくお姉ちゃんを見ていることに。
それでも私は泣かなかった。
笑って祝福しようってそう決めたから。
「じゃあ、逃げずに告白しなよ。……頑張ってね」
それ以上は寂しくて言えなかった。
「うん。椋……ありがとう」
「だったら……」
私は一つ提案をした。

それは髪を切ることだった。
岡崎君は長いほうが好きだって言ってたけど、試させてもらうことにした。
髪を切った状態のお姉ちゃんと私を間違えずに分かるかどうかを……。
結果はうまくいったらしい。
私は嬉しいような悲しいようなそんな気分だった。
しかし、そんなとき私に転機が訪れた。
俯いている私を陽平君は励ましてくれました。
それが私には嬉しかった。
知らないうちに私は彼に惹かれていた。
そして告白をして彼もそれに答えてくれた。

今日はデートの日だ。
1週間に一回はこうしてデートをしている。
あとは毎日料理の練習をしている。
お姉ちゃんも私をからかいながらも応援をしてくれている。
今日の料理の出来は今まで最高だと思う。
早く来ないかな。

5分ぐらい経つだろうか。
陽平君の姿が見えてきた。
急いできたのだろう。
汗が滲んでいた。
「待った?」
そこは恋人としてやはり、
「今来たところですよ」
笑っていった。

彼と楽しい時間がいつまでも続きますように。
 

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