僕の中で何かが引っかかっていた。
僕の手には誰かがくれたであろうと思われる木彫りの何か。

「何だったかなぁ……」
後味が悪い。
こう、何かが頭の中で引っかかっている。
そう、大事なことを忘れているようなそんな感じだった。


朝早く目が覚めてしまう。
そして、最初目が入るのは木彫りの手裏剣。
いや、手裏剣ではなかったはずだ。
「うーん、なんだったかなぁ」
ふと、考えてみる。
ちっこくて結構可愛い、けど口が悪くて口癖は……なんだったかなぁ……?

思い出せない。
どうしても思い出せなかったので何かが引っかかったまま学校に行くことにした。

学校の前の坂道僕は何かを思い出そうとした。
それが思い出せると気持ちがはっきりするはずなのに、どうしても思い出せない。
なんだろうこの感じは……。
嫌な感じだった。
誰かのことを忘れている?
誰だろう……。

小さくて、可愛かったと思う。
それは朝でも何とか思い出せたと思うがそれ以上が思い出せない。
悶々としたまま教室に入る。

席には岡崎はいなかった。
遅刻だろうかと思っていたら予鈴ギリギリに戻ってきた。
手には少し大きめな袋を持って……。

「ねぇ、岡崎。その袋の中身って何?」
気になって仕方がなかったので思い切って聞いてみることにした。
「ん、これか? これは大切なもんだ。そう、大切な……」
最後が聞き取れなかった。
そして、岡崎は窓の方を向いて溜息を一つ付いていた。

袋の中身がどうしても気になった。
なぜかあれにはデジャヴを感じた。
あれには何が入っているんだろう。
気になって仕方が無かった。

昼放課になると、岡崎はどこかへ行ってしまった。
僕も学食へ行こうかと席へ立って昼飯を食べに行く。
その途中、岡崎と渚ちゃんに会った。
「何してるの? 二人で」
僕は気軽に話し掛けたのに二人は暗い表情をしていた。
「ん、ああ。これだよ、これ」
と言って袋を指差す。
「春原さん。これに見覚えはありませんか?」
渚ちゃんが木彫りの手裏剣を見せてくる。

それは僕の部屋にあったものと同じ物だった。
頭に激しい痛みがする。
思い出したいのに思い出せない。
そんな自分が不甲斐なく思えた。
僕は激しい痛みがしたが、これだけは言えた。

「僕はそいつのこと嫌いじゃなかったよ……」
この一言だけ搾り出せた。

「そっか……ありがとな。春原」
岡崎が僕にお礼を言ってくれるのは初めてだと思う。
その言葉の後、一瞬だけだけど岡崎の隣に誰かがいた気がした。

「風子……」
ポツリと誰かの名前を呼んだ。
「なんだって?」
岡崎は驚いた表情をした。
「何か思い出せたのか?」
肩を掴んでぐらぐらと揺さぶる。
「ご、ごめん。僕なんて言ったっけ?」
たしかに何かを言ったはずなのに覚えていなかった。
「そ、そうか……すまん」
はぁ、とうなだれる岡崎。

そのまま昼放課は過ぎていった。


帰り岡崎と誰かが喋っていた。
誰だろう。
そのまま近づいていってようやく思い出すことが出来た。

「岡崎、風子ちゃんっ!」
その大事なことを言うとはっきりと見えた。
そう、小さくて、口が悪いけど可愛くて一目ぼれをした。

「春原さん。最悪です」
第一声がそれだった。
「なんで第一声がそれなんっすかねぇ!?」
「まあこれが風子のスタイルだからな」
岡崎が言葉をつきたす。

「春原さんっ」
風子ちゃんは僕の方を向いて、
「これ、どうぞっ」
渡されたのは一つの木彫りのヒトデだった。

「それと、今度おねぇちゃんの結婚式があるんです。祝ってくれませんか?」
僕はふっと笑い、
「いいよ。こんな僕でよければね」
頭で考えたわけではない。
すっと口がそう動いていた。

 

月日が流れて……。
ふうちゃんが目を覚ましたと聞いて僕は喜んだ。
僕のほかにも公子さん、祐介さん、岡崎、渚ちゃんほか多くの人が喜びをあげていた。
目が覚めて第一声は、
「陽平さんっ、風子と付き合ってくださいっ!」
僕は顔が真っ赤になってしまった。
そのあと公子さんはあらあらふうちゃんはと祝福してくれているし、
祐介さんはふっこれが愛かと何か呟いているし、
岡崎にはからかわれた。
渚ちゃんはおめでとうございますと言ってくれた。
これで公子さんと祐介さんの公認のカップルとして付き合い始めた。

その後順調に退院をして、デートをすることになった。
が、僕は寝坊をしてしまった。

「陽平さん、最悪ですっ!」
「一分遅れただけでしょうがっ!」
「こんな可愛いレディを待たせて遅刻をするんですからっ」
「それは謝るよ。ごめん……」

あの後僕も岡崎と渚ちゃんの手伝いをし始めた。
ふうちゃんは気づいてもらえることは多くなかった。
けど諦めずにやった結果、
日曜日には僕を含むほとんどの生徒が出席した。

「さあ、陽平さんっ、行きましょう」
手を引っ張られて走り出す。

悪い感じではない。
むしろいい感じだった。
ここから僕とふうちゃんの関係は続いていくのだから……
 

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