私はいつものように彼を待っていた。
彼は言った。
『後10分待ってて。必ず行くから』
とそれだけを信じて私は今彼を待っている……。

 

―――私と彼が会ったのは半年ぐらい前だった。
彼の第一印象は面白い人だと思った。
彼と一緒にいた岡崎さんは彼の使い方を良く知っているようでうまく使ってそれを陽平さんがつっこむという一緒にいて退屈しなくて、とても楽しい時間を過ごせてました。
……しかし、岡崎さんは来てくれなくなりました。
その代わりに陽平さんが毎日来るようになりました。

最初は残念がっていましたが陽平さんは面白い人です。
話題が尽きないでいつでも話しているマシンガンみたいなそんな感じです。

時にはおまじないもやったりしました。
体育倉庫ではお世話になりました。
あのときは楽しかったですよ。

そんなこんなで私はいつしか陽平さんに惹かれていました。

しかし、それを快く思っていない人たちもいました。
それは……

「おう! ゆきねぇ。あの金髪はまだいねーのか?」
「はい……今はまだ……」
「かぁーーっ! あの金髪は……ゆきねぇをゲットしたというのにいつも一緒にいねーとわな。こりゃまた締めるか?」

そう、私の兄の友達です。
彼らは兄の遺言? みたいなので私のことを頼んだようでほぼ毎日来てくれています。
でも、もうそれはいいんです。
今の私には陽平さんと言う大事な彼氏がいるのですから……
あのときの告白は衝撃的でした。

 

「おい、おまえか? ここ最近ゆきねぇに寄っているという奴は」
ドスの効かせた声で僕を脅す。
そして睨みつけてくる。
しかし、僕も負けられない理由があった。
それは、有紀寧ちゃんからこいつ等を突き放すことだった。
僕は毎日のようにこいつらに会ってきた。
そして弄られてきた。
その後介抱をしてくれた有紀寧ちゃんが言ってくれた。
彼らは兄の友達なんだと。
兄が死んで塞ぎこんでいた有紀寧ちゃんを奴らが励まし続けてきた。
それには感謝をしている。
だけど、もうそれは要らないんだ。
なぜならそれは……。


「僕が有紀寧の彼女だぁ〜〜!! 文句ある奴出てこいっ!」
僕は高らかに宣言をした。
彼女は僕のものだということを……。
やはり不満があるやつはたくさんいるらしい。
うじゃうじゃと出てきた。
その人数はざっと30人ぐらいだろうか。
数は多いけどそれはもう承知のうえだった。

「ああん? おまえみたいなひょろいのがゆきねぇの彼氏だとぉ? 笑わせるなよ、ゆきねぇは誰のものでもないんだよ。それは今までもそうだったし、これからもだ」
たしかに奴の言うことは合っている。
ぽっと出てきた僕が有紀寧ちゃんをこいつ等から取るなど少し前までの僕は考えてもいなかっただろう。
でも僕は諦めない。
夢はもう諦めてしまったけど、大事な人ぐらいは掴み取ってみせるさ。

「かかって来いっ! へなちょこども!」
僕は奴らを挑発する。
挑発に乗った奴らが一斉に襲いかかってくる。
それを僕は抵抗をしなかった。
ドカドカと殴られていく。
体中が悲鳴をあげる。

これが『痛い』なのか。
さすがに30人は多かったと思う。
体中が痛い。
血も出ている。
口の中が鉄っぽい。
など、色々なことを思った。
しかし、さいわいなことに骨は折れてはいなかった。
これは日ごろ智代や杏に鍛えられてきたからだろうと思う。
その辺は二人に感謝をしたい。
興ざめをしたのか奴らのリーダー格が僕に話し掛けてくる。

「お前。なんで抵抗しねぇ」
至極当たり前のことを聞いてきた。
僕の言うことは決まっていた。
「彼女は……喧嘩を望んではいないからね」
そう。優しい彼女はこんなことを望んではいない。
むしろ仲良くしましょうというだろう。

でも、それでは駄目なんだ。
彼女自身が兄と決別することでようやく僕がこうボロボロになった意味が生まれてくるのだから。

「陽平さんっ」
有紀寧ちゃんが僕の元に駆け寄ってくる。
「どうしてこんなことを?」
「決まってるじゃないか。君のことが好きだからさ」
「え?」
驚いた表情でこちらを見ていた。
普段おっとりしている彼女からは想像出来ない姿だった。
「好きになったからこそ、彼らとは……いや君のお兄さんとは決別をしないといけないんだ」
誰も何も言葉を発さず黙っている。
静寂の中僕の声だけが聞こえる。
「お兄さんは有紀寧ちゃんのことを大切に思っている。だから親友や友達に有紀寧ちゃんを頼んだ。そこまでは有紀寧ちゃんから聞いたよ。……でもね、それじゃ有紀寧ちゃんのためにはならないんだ。もう有紀寧ちゃんは子供じゃない。大人なんだ。だからもう、有紀寧に纏わりつくなっ! 彼女はもう君たちを必要としていないほど成長をしてるんだ! もう、君たちの人生を奪う必要はないんだ! 君たちはもう、自由なんだぁ〜〜〜!!」
とてつもなく大きな声で最後の言葉を言った途端、リーダー格の奴が、
「そうか……ゆきねぇは成長していたのか。俺たちが知らないうちに……。俺たちは自由なんだな?」
「ああ、そうさ。もう自由と言う名の翼が戻ってきたんだ。長い年月をかけて」
「そうか……そうか……」
各々に泣きじゃくっていた。
実際でかい図体が泣いている姿を見るとあまり美しくない景色だけど悪くはない。
そう彼らは今日から自由なのだから……。

「皆さん。お疲れ様でした。こんな……こんな私のために長い間つき合わせてしまって……。でもこれからは皆さんのしたいことをして下さい。そして後悔のない人生を送ってください。私からは……以上です」
涙を見せながらも笑顔で彼らに言う有紀寧ちゃんは可愛かった。

 


ガラッと扉が開く音が聞こえます。
「ご、ごめんね?」
「遅刻ですよ? 陽平さん」
あら? さっきまでいたのにもう居なくなっています。
気を利かせてたんでしょうか?
多分そうですね。
「では、罰として陽平さんに甘えさせてください」
「へっ? ……ああ、いいよ。僕でいいならね」
一瞬驚いた様子でしたがいつもの様子に戻りました。
今日は甘えさせてもらいますね。陽平さん。

 

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