鳥たちがチュンチュンと鳴く声に僕は目を覚ました。
「ふぁ〜あ」
大きな欠伸をして、肩を上にあげて大きく伸びをする。

今日は大事な恋人とのデートの日だった。
伸びの後時計を見て僕は驚愕した。

「いいっ!!」

約束の時間を過ぎていたからであった。
AM11:00一時間の遅刻だった。
僕は急いで着替えに入る。

着替えてご飯を食わずにアパートを出た。

集合場所はいつもの商店街の入り口らへん。
らへんというところが曖昧だが僕と彼女を繋げる場所でもあるため気にしない。
走ってきたので少し息があがってしまう。
でも少しでも早く彼女の元へ行きたいと思う気持ちが僕を走らせていた。

「待った?」
僕の声に顔をこちらに向けてあっと小さく声をあげる。
「遅いぞ。私のことを一時間も待たせておいて」
銀色に輝く髪、整っている顔立ち、いつもの制服とは違い女の子らしい服装。
それが僕の彼女坂上智代だった。

「ほんとごめん!」
僕はとりあえず何回も何回も謝る。
すると彼女は、
「そんなに謝るな。周りの人たちが見ているだろう。彼氏のお前がそんなに謝ると逆にこっちが困ってしまうぞ」
と言って智代の顔が少し赤くなる。
「それじゃ行こうか」
「ああ」
智代と手を繋ぐ。
最初は二人とも恥ずかしくてドギマギしてしまったけど今では手を差し出せば手を繋ぐことぐらいは出来るようになった。
進歩したんだなぁとしみじみ思ってしまう。

着いた先は何も変哲もない公園だった。
前はゲーセンとか言っていたけど智代が彼女になってからと言うもの僕の生活は180度変わった。
まず、学校をまともに行くようになった。
いつもなら遅刻が当然だったのが智代が来てくれるようになってからは一度もしたことがない。
これはいいことだと思う。
次に、ゲーセンに行かなくなったということだ。
今までは一人でいったり、たまに岡崎と一緒に行くことがあった。
しかし、岡崎にも彼女が出来て僕にも彼女が出来るようになってから一度もいっていない。
行きたいという気持ちはあったものの智代と遊んでいるほうが数倍楽しく思うようになってから行かなくなった。
でも、それはもう一年も前の話だ。僕はもう学校を無事に卒業してるし、智代だってもうすぐ学校卒業する。
そう、今では過去のいい話でしかない。

「どうせお前のことだ。ご飯を食べていないんだろう?」
「おっしゃるとおりで」
「だから仕方がなく私が作ってやった。ありがたいと思え」
「ありがとうございますっ! 智代様」
目から涙が出てくるほど嬉しかった。
「だから、そんなにくっつくな。……恥ずかしいだろう」
最後のほうはボソボソと言っていたが恥ずかしい言葉でも言っていたんだろうと思いそれ以上何も言わなかった。
「まあいい。今日の弁当は自信作なんだ」
気持ちを切り替えたのか。手提げのバッグから少し大きめの包みを出す。
包みの結びを解いて弁当箱の蓋を開けるといい匂いが僕の鼻を刺激する。

「今日はお前の好きなおかずばかりを作ったんだ」
そういって一つ一つ指を差して料理名を言っていく。
ハンバーグ、アスパラのベーコン巻き、卵焼きなど見た目もおいしそうでと言うかおいしい。
これは学校でも僕の教室まで来て弁当を食べさせに来てくれるからだ。
その後智代から箸をもらいさっそく卵焼きから食べる。
「どうだ? おいしいか? おいしくないか?」
心配そうな顔をして聞いてくる。

「おいしいよ。智代」
その一言で救われたのか智代の顔がたちまち元気になる。
「そうか。なら良かった」
智代も自分の箸でおかずを食べていく。
「ん」
彼女の箸が僕に差し出される。
「何、これ」
彼女の出されたものに返答が困ってしまう。
「あ、あ〜んだ」
恥ずかしいのだろうか箸を出している智代の顔は真っ赤だった。

これは本で見たことがあった。
彼女が弁当を持ってきてやる恋人同士の基本的な付き合い方と本には書いてあった。

でもいざ行動に移そうとしたらなんか恥ずかしかった。
でもせっかく勇気を出してやってくれるなら僕もそれに答えないと思い、
「あ〜ん」
僕も勇気を出して箸に挟んであるハンバーグを食べる。
もぐもぐと口を動かして味を噛み締める。
「自分で食べるよりもおいしいかな?」
といって僕もおかずを一つ箸で取り智代に差し出す。
「〜〜〜っ!」
智代はそれに恥ずかしかったのか言葉にならない声を出す。
しかし、深呼吸をして、僕の箸のおかずを食べる。
「どう? おいしいでしょ」
「ああ。おいしい」
その後も弁当のあ〜んが少しの間続いていた。

弁当も食べ終わり僕は欠伸をしてしまう。
「どうした? 眠いのか?」
心配そうに言う智代。
「ちょっと……ね」
指でちょっとと言う動作をすると智代は自分の太ももあたりを軽くポンポンと叩く。
「?」
「分からないのか? 膝枕だ」
ああ思い出したかのようにポンと手を反対の手のひらに当てる。

これも本で見たやつだった。
仲のいいカップルは公園のベンチなどで膝枕をしているというやつだった。

「それじゃ、お邪魔して」
智代の行為を無駄にしないようにと僕は智代の太もものあたりに顔を置く。
顔が目の前にある。少し恥ずかしくなるが、すぐに目を閉じるとまどろみに落ちていった。


私は彼、春原陽平の顔を見る。
少し子供のあどけなさを感じるもののかっこいいと自分では思う。
金髪で問題児だった彼。
なにかと突っかかってきた日が懐かしく思える。
そのたびに蹴っている自分を思い出すと笑えてくる。
朋也と一時期は付き合っていたものの、朋也から別れようと言われたときはショックだった。
それを忘れようと必死に周囲のこと気にして私は頑張った。
英語で意見を言う大会にも優勝をした、学校の桜の木も必死になって守ったしかし得られた物は評価と人気だけだった。
そんな毎日の中、彼は私のことを茶化しにきたりもしてきた。最初はそれがうっとしくも思えたが日が経てば経つほどに彼のいいところが見えてくる。
そんな彼に私はいつしか惹かれていた。
生徒会が終わったときには朋也は古河と付き合っていた後だった。
しかし、彼は違った。
生徒会が終わり、私は一人寂しく帰ろうとしたときだった。
一人の男が私の視界に入る。
金髪から黒髪に変わっているが顔は変わっていない彼だった。
「お疲れ様」
彼のその言葉で私は彼に抱きついていた。
「私は……振られたんだ。朋也に」
目から涙があふれてくる。
好きだった彼に振られて悲しかった。
「うん」
彼は優しい声で私を慰める。
「でも、不思議と寂しくはないんだ。どうしてだろう?」
「ほんとに寂しくないの? 実は強がってなんかない?」
彼の問いかけに私は言った。
「ああ、お前が……いや陽平がいてくれてたからこそだと私は思う」
彼は驚いた表情をする。
「好きです。私、坂上智代は春原陽平のことが大好きです。こんな私でよければ付き合ってくれますか?」
私は自分なりの精一杯の告白をして、彼の返事を待つ。

「こんな、僕でいいならね」
私と彼は熱い口付けを交わした。
こうして私と陽平は恋人同士になった。


空が茜色に染まり、夕日が綺麗になったころだった。
今まで私の膝枕だった彼の顔が上にあった。
私は不思議に思っていると、
「起きたら智代寝ちゃってるんだもん。驚いたけどそのまま僕が膝枕をするという形になってるよ」
少し寝ぼけている私に陽平が私に説明をしてくれる。
「すまない。少し昔のことを思い出していた」
「そっか。まあいいんじゃない? 思い出すということは悪くないからねっ」

私は一言断りを入れて立ち上がる。
その後陽平も立ち上がり私の手を引いて、

「それじゃ帰ろうか。智代」
「ああ」
手を繋いで日が当たって茜色に染まっている公園を後にした。

そして、今の私なら誇らしげにこう言えるだろう。

『今、私は幸せです』
 

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