僕は、その日も岡崎と智代ちゃんに起こされた。

岡崎曰く、俺だけこんな目にあうのはおかしいからと言う理由で僕も巻き添えを食らわされている。
「いいだろ? 俺たちは親友なんだからさ?」
その言葉を言われると僕は何も言えなくなってしまう。
やっぱり友達は大事だよねっ。

今日も遅刻をせずに学校の前の坂へと到着する。
「はぁ……」
大きく溜息をつく。
「どうした? ついに頭の中まで可笑しくなったか?」
「ちげーよ! だいたいあんたたちが僕を起こしにこなければこんな気持ちになりませんからっ!」
「なんだ? 不服なのか?」
「不服も何も誰も起こしに来てくれとも言ってないのに勝手に起こしに来るなよ!」
岡崎の言葉に僕はムキになってしまう。
「あまり文句を言うな。起こしてやってるんだ、もっと感謝して欲しいぐらいだぞ」
「そうだぞ。遅刻しないと言うことはいいことなんだ」
岡崎が智代ちゃんの言葉に乗って言いたい放題言ってくる。
「お前もお前だぞ? 岡崎。私が起こしに行かなかったらまだ寝ている時間だろう」
「ま、まあな」
ポリポリと頭を掻き照れている岡崎。
「ぷ、智代ちゃんに怒られてやんの」
「それはお前にも言ってるんだぞ? 春原」
こめかみの辺りを指で当てながらヒクヒクとさせている。
爆発寸前だった。
「ごめんごめん。とりあえず謝っておくよ」
「何が……とりあえずだぁ〜〜!!」
どぐしっどぐしっどぐしっどぐしっどぐしっ・・・・

蹴られて地面に叩きつけられる。
「行くぞ。岡崎」
「ああ」

………………
「勝手に僕を置いてくなよ!」
「早いな。回復するの」
「まあね」

などと話ながら校門をくぐり、下駄箱へと向かい、靴を履き替える。
「じゃあ、また昼に会おう」
それだけ言って智代ちゃんは自分の教室へと向かっていった。

とりあえず僕たちも教室へと向かう。
教室に入るとすぐに予鈴がなったどうやら今日もギリギリHRに間に合ったらしい。
自分の席に着くとすぐ眠気が襲っていた。
「ふぁ……」
欠伸をして自分の腕を枕にして目を閉じる。
すぐに目の前が真っ暗になり、夢の中へと意識が落ちていった。


「……原。……原。起き……か」
誰かが僕を呼ぶ声が聞こえた。
「いいか……に起き……か」
段々声のトーンが大きくなっていく。
「起きろ!」

どぐしっ
「へぼっ!」
腹にものすごい痛みがおきて目が覚める。
目を開けるとそこには弁当を食っている岡崎と包みを出している智代ちゃんの姿が目に入った。

「ねぇ岡崎」
「なんだ?」
「僕今ものすごい腹のあたりが痛いんですけど」
「夢で誰かにでも蹴られたんじゃないか?」
「でも……それにしてはやけに痛みがリアルなんですけど……」
「ちっ」
岡崎が舌打ちをする。
「今舌打ちしましたよね? しましたよね?」
「うるせーな。俺は腹が減ってんだよ」
そういってまた弁当のおかずを箸でつまみ口に入れる。

「春原も食べろ。私の自信作なんだ」
ずいっと僕の目の前に包みが出される。
「あ、どうも」
それをすなおに受け取って自分の席で広げる。
バランスがいいおいしそうな弁当だった。
箸で一つおかずをつまみ食べる。
「うまい」
嘘もないほんとの感想が口から漏れていた。
「そうか。なら作りがいがあるというものだ」
ふっと笑い、弁当を食べていた。
昼放課中、智代ちゃんはずっとご機嫌だった。


放課後……
「岡崎、放課後だぜ」
「お前ほんとに元気な」
岡崎はげっそりとした表情だった。
「どうしたんだよ」
「ああ、今日さ、杏にこのあと付き合ってって言われてんだよ」
「ふーん。大変だね」
「人事のようにゆうな」
「しょうがないだろ? 実際人事だもん」
「はぁ………」
岡崎はこのあとのことを考えているんだろう。何回も溜息をついている。
「あ、朋也〜」
声がするほうに顔を向けると杏が教室に入ってきて岡崎を連れて行く。
「じゃーねぇ」
「あぁぁぁぁ」
岡崎は杏によってどこかへ運ばれて行ってしまった。

そのあと特にすることがなかったので帰ることにした。
何も入っていない鞄を持ち教室を出ようとする。
その時だった。
「ん? 春原しかいないのか」
智代ちゃんがちょうど教室に来た。
「ああ、杏に連行されていったよ」
僕は少し遠い所を見ながら言う。
「そうか………」
残念だという顔になる。
「じゃあ、仕方ない。春原一緒に帰ってやる。感謝しろ」
「なんで一緒に帰るだけで感謝しないかんのですかねぇ!?」
「お前どうせ一人だろう? だったら一緒に帰ったほうが寂しくはないだろう?」
智代ちゃんからそんな言葉が聞けるとは思っても見なかったため僕は呆然としていた。

「ほら、帰るぞ」
僕の手を引いて教室から出る。
手を握られていることには不思議と安らぎを感じていた。
学校から出たあとも智代ちゃんは手を離してはくれなかった。
でも、帰り道僕も智代ちゃんも一言もしゃべらなかった。


寮に到着してようやく手を離してくれる。
でもその手になにか寂しさを感じてしまっている。
まだ繋いでいたい、もっと一緒にいたい、そんな感情に駆られていた。
「なあ、春原」
そんな考えをしている僕に不意に智代ちゃんが口を開いた。
「何?」
「これは私の独り言だ。聞き流してくれ」
「……分かったよ」
「私は、今と言う時間がとても楽しいと感じている。荒れていたせいか何をやっても面白みを感じなかった。でも、この高校に入って楽しいと言う時間が蘇ってきたんだ。それは、子供の頃以来だった。でも、今日私は見てしまったんだ。岡崎とその杏って人がキスをしているところを……。私はショックだった。毎朝、起こしてやりにいって文句を言いながらもきちんと登校してくれる岡崎が好きだったんだ。でも、それはもう叶わない。今日それを覗き見していることがばれてしまって杏って人から岡崎はあたしの恋人だからしないでくれる? と言われて、岡崎からもすまんとだけ言われた。この胸にぽっかりとあいた穴をどうやって埋めればいいか分からないんだ」
胸に手を当てて苦しそうなに語る智代ちゃんを見て僕は言葉よりも先に体が反応して、智代ちゃんの体を抱きしめていた。
「辛かったんだね」
僕は優しい言葉、口調で智代ちゃんを慰める。
智代ちゃんは、静かに涙を流し始めた。
「う、う、うあああああ!!」
僕は泣いている智代ちゃんを宥めながら自分の部屋へと向かっていく。
部屋に向かう途中美佐枝さんと会って怒られそうになったけど事情を後で説明するという条件で見逃してもらえた。

部屋に入る。
「ひっく、ひっく……」
しゃくりを続けながら泣いている智代ちゃん。
そんな姿にいたたまれなくなり、僕は自分の気持ちを言うことにした。
「僕はさ。智代ちゃんのこと好きだよ」
「え?」
驚いている様子だった。
無理もないだろう。失恋をして、そのあとに告白ということは同情されていると思われがちであるからだ。
「冗談は……よしてくれ」
「冗談なんかじゃないっ!」
「っ!」
びくっと体を揺らす。
「ご、ごめん。きゅうに大声出しちゃって。でも、これだけは言えるよ。僕は、智代ちゃんのことが好きなんだよっ! ……こんなこと言っちゃあれだけど、智代ちゃん岡崎ばかりに世話焼いて岡崎もまんざらでもない様子でそれを受けていて僕はさ、やきもちを焼いたんだ。岡崎に。恥ずかしいな、こんなこと言っても何も変わらないのに……」
「そんなことはない」
智代ちゃんが静かに口を開く。
「私も嬉しいぞ。その…なんだ……なんと言っていいか分からないけど、これだけは言える」
すうっと一息おいてその後に続く言葉を言う。
「私も好きだぞ。春原。いや陽平」

「あははは」
恋が実った瞬間だった。
僕は笑いが止まらなかった。
「笑うな」
おでこを軽く叩かれた。
「でも、嬉しいよ。こうやって恋が実るってのはさ」
「そうだな」
僕たちは静かに口付けを交わした。

「これからは毎日起こして来るからな。弁当も毎日一緒に食べよう」
「うん、分かったよ」
「私の本気は凄いんだからな」
笑顔でそう言った。
「分かってるよ」

これからは彼女と一緒に歩いていける。
彼女と一緒に過ごしていける。

そんな風に考えると気分が高鳴るそんな気分だった。

そして彼女の本気は凄かった。
とだけ評しておこう。
 

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