僕は、最近気になるやつがいる。
それは岡崎と最近一緒にいる一ノ瀬ことみだ。
最初は岡崎を取られた気分になり怒りばかり出ていた。
しかし最近は岡崎や杏、委員長、渚ちゃんよりも一ノ瀬ことみを見てしまう。
なぜだろう。
そもそもこんな気持ちになったのは初めてだったので戸惑いが僕の中で生まれる。
(なんでこんあにもあいつのことが気になるんだろうな……いや考えないでおこう)
顔を横に振りもう考えないで寝ることにした。

朝、早く目が覚めてしまった。
それも一ノ瀬が気になって仕方がなかったからだ。
「ったく、何なんだよ。一体……!」
僕は独り言を呟く。
残念ながら眠気はなかった。
仕方がなく、制服に袖を通し着替える。
そして学校を目指しゆっくりと歩いていく。

すがすがしかった。
それが久々に早く目が覚めて思ったことだった。
いつもは昼ぐらいに着くはずなのにもう学校の長い坂までやってきてしまった。
「あーあ、なんか面白いことでもないかなぁー」
「面白いこと?」
「うん、岡崎とさ面白いことをやると僕も楽しいんだよね」
「朋也君と?」
「うん、そうさ。僕と岡崎は親友だからね」
「そうなの?」
疑問が浮かび上がってきた。
僕は今誰としゃべっている?
杏?いや杏だったら間違いなく一冊は辞書が飛んでくるはずだ。
岡崎はないな。岡崎だったら軽く流しちゃうだろうし。
委員長の声でもないし、渚ちゃんの声でもない。
もしかしたらと思いそちらに視線を向けると、そこには気になっている一ノ瀬の姿があった。
「???」
「いや、そこはハテナ三つじゃないからね」
彼女が首を傾げていたので思わずつっこんでしまった。
「……なんでやねん」
そこにワンテンポ遅れて手の突っ込みが入る。
「それはあきらかに遅いし!」
「っ!」
いきなりの声に驚いてしまったらしい。
「いじめる? いぢめる?」
目に涙を浮かべながらこちらに聞いてくる。
その姿が可愛くて小動物みたいだった。
「ぐへへへ、どうしちゃおうかな?」
とりあえず乗っておくことにする。
「いじめないで……」
か細いその声が逆に僕の理性を暴走させる。
「食べちゃ……ふぎゃ!」
「?」
「こらー! 陽平! あんたことみに何してんのよ!」
辞書が僕の顔面に直撃してその場に倒れる。
「大丈夫? ことみ。あたしがきたからにはもう安心よ」
「うん。ありがとうなの。杏ちゃん」
どうやら二人で勝手に話を進めているらしい。
「あの……僕を……話を…」
「あん?」
「ひぃ」
恐ろしい杏の顔に足が後ろに下がってしまう。
「さて、覚悟はいいかしら?」
ポキポキと腕をならしこちらへと近寄ってくる。
僕は目を瞑った。
もう殴られると思ったが拳は飛んでこなかった。
「杏ちゃん。春原君と世間話をしてただけなの」
一ノ瀬が僕を弁明というか事情を説明してくれた。
それに渋々納得しながら僕と杏と一ノ瀬は学校へと向かっていった……。

授業はもっぱら寝ることにしている。
岡崎も寝息を立ててすうすうと寝ている。
高3にもなって寝ているのはだめなわけだが僕と岡崎には関係なかった。
いわゆるオチこぼれと呼ばれるやつだった。
僕と岡崎はスポーツ推薦でこの学校へと来たわけだが、ある出来事があって部活をやめることになった。
そこで岡崎と出会い、そして今までばかをやってきたというわけだ。

気づいたら昼になっていた。
「岡崎、昼だぞ」
「ん? ああ」
寝ぼけ眼で僕のほうを見て一言。
「誰だっけ?」
「あんたの親友の春原だよっ!」
「春原? そんなやつ知らん」
「ひどいっすね!」
「悪い、冗談だ」
「冗談に聞こえないんですけど」
特に反省をしているわけでもなかったがどうでも良かった。
「今日の昼どうする?」
「俺行くとこあるから」
そういって教室から出て行ってしまった。
気になった俺は岡崎の後を追う。
「待ってくれよ! 岡崎」
「なんだまだいたのか」
歩調を緩めず視線も変えず反応する。
「なんだはひどいじゃん。僕と岡崎の仲だろ?」
「俺はお前と友達や親友になったつもりはない」
「あんたひどいっすね!」
あーだこーだ言っているうちに岡崎がある場所で足を止めた。
そこは演劇部室だった。

「ちーす」
岡崎が扉を開けるとそこには杏と委員長と渚ちゃんと一ノ瀬の姿があった。
下にシートをしいてそこに弁当箱を広げて食べていた。
「遅かったじゃない? なにかあったの?」
「いや、ばかがな。なかなか離してくれなくてよ」
「ばかとはずいぶんな言い方ですね!」
「実際ばかじゃない」
「ばかだな」
「えっと……」
杏と岡崎は僕をバカ呼ばわりそて委員長と渚ちゃんは困った様子で一ノ瀬はもくもくと本を読んでいた。
何を読んでいるのか気になったため覗き込んでみる。
『お笑いとは』だった。
なんだそりゃ……
IQ180の彼女がお笑い芸人でも目指してるのかと疑問に思っているところに辞書がいいところにクリーンヒットして意識が真っ暗になった。

気づいたらもう外は夕暮れに染まっていた。
なんで僕はこんな目にあうんだろう。
そんなことを考えていると頭がもぞっと動いた。
なんだろうと思い頭を上げるとそこには目を瞑って寝ている一ノ瀬の姿があった。
起きるのに衝撃があったのか一ノ瀬は目を覚ました。
「あっ、良かった。目が覚めたの」
一ノ瀬の優しい声が僕を安らぎさせてくれる。
「大丈夫なの? 春原君」
僕は彼女のことが好きなのかも知れない。
だって彼女の声を聞くとなんか幸せになれるから。
「なんでやねん」
彼女のつっこみではっと気がついた。
「一ノ瀬ことみ?」
僕の声は裏返ってしまった。
「呼ぶときはことみちゃん」
「え?」
「フルネームじゃなくてことみちゃんって呼んで」
「え、ああ、うん。分かったよ。ことみちゃん」
「嬉しいの」
彼女は嬉しそうな顔をして喜んでいた。
僕は勝負にでることにした。
「ことみちゃん!」
「なに?」
「好きです。僕と付き合ってくれませんか?」
頭を下げ土下座の形をとって懇願する。
しかし彼女の返事はない。
あきらめかけたそのときだった。
「私も春原君のこと気になってたの。私からもお願いするの。私と付き合ってくださいなの」
頬をつねってみる。
「い、痛い……」
夢じゃなかった。
「ありがとう」
僕は久々にその言葉を使った。
「そして、これからよろしく」
「よろしくなの」
彼女が立とうとしたが足が痺れたんだろう僕のほうに倒れてきて
チュッ
唇と唇が重なり合った。
それが僕たちの初めてのキスだった。

そして3年後……
「ほんとに結婚しちまうとわな」
「まったくよねぇ」
「人は見かけによりませんから」
「春原さん、ことみちゃんおめでとうございます」
口々に言葉を発するいつものメンバーに、
「おう、誰か知らんが幸せにな」
「お幸せに」
プラスαがついて僕たちは結婚式を行う。

僕たちは式場に入る前だった。
僕は白のタキシード、ことみは白のウエディングドレスを纏っていた。
僕は緊張していたけどことみが
「大丈夫なの」
その言葉で緊張の糸が解けた。
「じゃあ、行こうか。ことみ」
「はい、あなた」
僕たちは手をつなぎ結婚式場へと入っていった。

 

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