もう、月が照らし出てきているそんな時間だった。
その中で二人の人影が学校の敷地内で何かをしていた。

今僕と杏は体育倉庫に閉じ込められている。
有紀寧ちゃんから聞いたあのおまじないによって……。

時間はもう三時間ぐらい前になるのかな?
いつものように岡崎と一緒に資料室に行ったときだった。

いつものようにおまじないの本を出して言われたとおりにおまじないをすると叶うと言うあんまり信じたくはないけど、結構当たるおまじないだった。
実際僕はあまりいい目には会っていない。

今回は冗談半分本気半分で好きな人とどこかに閉じ込められると言うおまじないはないかと聞いたらあるらしい。
なので僕はさっそく試してみた。

10円玉を立ててその上にさらにもう一枚の10円玉を乗せると言う難易度は結構高かった。
ちなみに岡崎はパスしたらしい。

「いいさ。僕と誰かが閉じ込められてウハウハな気分だったって岡崎に教えてやるよ」
「ああ、期待せずに待ってるよ」
そんなやる気の無い声を出して僕の10円二枚を立てる様を見ていた。

10分ぐらいだろうか、なんとか二枚立てることが出来た。
閉じ込められたい相手を思い浮かべる……っと。
一人の女子が頭に思いついたので頭で念じる。
そして教えられた呪文を唱える。
「……………!」
10円玉が倒れる。
「成功です。それで好きな人と二人きりで閉じ込められますよ」
屈託のない笑顔で有紀寧ちゃんが言ってくれた。
「よっしゃぁ〜〜!! 見てろよっ。岡崎、僕ウッハウハな気分を味わってくるからな」
「ああ、楽しんで行って来い」
片手を挙げて横に振って応援してくれる。
僕はとりあえず外に出ることにした。

……………
もう夕方になるだろうか。
誰一人としていない。
「はぁ……。所詮はおまじないか……」
僕は残念がった。
なぜなら閉じ込められたらあんなことやこんなことをしようと思っていたからだ。
期待が大きかった分、落胆も大きい。
そりゃ、溜息だってでるさ……。
なんて考えていると目の前にボールが転がってくる。
「あ、ようへーい。それとって〜」
聞きなれた声。
僕が待ち焦がれていた相手の声だった。

「ん」
ボールを取って杏に渡そうとする。
しかし、杏は両手にたくさんのボールを持っていて持ちきれそうにない。
「あ、丁度いいわ。陽平、手伝ってよ」
「どこに運ぶのさ」
「体育倉庫」
ドンピシャ
これは来たね。僕の時代が……。
「いいよ、手伝ってあげるよ」
「……なんか怪しいわね」
杏の目が怪しく光る。
「な、なんでもないさ。さ、さあ早く片付けちゃおうよ」
「そうね。相手が陽平ならあたしでもやっつけれるし……」
「どういう意味ですかね!? それはっ」
「言葉通りの意味よ」
そこまで僕は弱くない。
むしろ強いと思っているほうさ。

なんだかんだで、体育倉庫でボールを片付けていると体育倉庫の扉が閉まり始める。
「ちょっ、ちょっと!」
杏が言う前に扉は無残にも閉まってしまった。

そう、これこそが僕の望んでいた最高のシチュエーションだった。
「はぁ……どうするの?」
杏が僕の方を見て意見を求める。
「んー、どうするも何もこの暗さじゃねぇ。あんまり見えないっしょ」
「そ、そうよね」
杏の声は心なしか震えていた。
「もしかして怖い?」
「……っ!!」
杏が目を見開いてパチパチとさせるも下を俯いて黙っている。
「え、えっと……マジ?」
「そうよっ! あたしは暗いところが苦手なの! なんか文句でもある?」
強気になるところ、結構無理しているな。
これなら落とすのも時間の問題かな?
「いや。杏も普通の女の子なんだなぁって思ってさ」
「え?」
僕の優しい言葉にぐっと来たに違いない。
「陽平からそんな言葉が聞けるなんて明日は雪かしら?」
「降らねーよっ! まず今5月ですからね!?」
「分かってるわよ。そんなこと………」

ここで一旦会話が途切れる。

 

マットの上で寝転がる。
夕日が沈みかけて月が出かかっていた。

「ね、ねぇ、陽平?」
「…………」
たぬき寝入りをすることにした。
「ね、陽平ってば!」
体をゆさゆさとゆさぶる。
しかし僕は起きないでいた。

すると、杏は諦めたのかと思いきや、
ドゴッ

「フガッ!」
顔面に漢和辞典がぶつけられた。
「な、なにすんだよ!!」
「あんたが寝てるほうが悪いんでしょ。あたしは起こしてあげただけ」

「けっ……」
僕は杏から離れる。
「ちょ、ちょっとどこに行くのよ?」
袖を掴まれる。
「離せよっ」
袖をぐいっと引き寄せると杏はバランスを崩してこちらに向かってくる。
隙あり!
僕はこちらに倒れ込んできた杏の口にキスをした。
「ん、んーん!!」
激しく抵抗を測るけどさ、男には力では勝てないんだよ? 杏。
そのまま舌で杏の舌を絡めとりキスを続ける。
だんだん杏の抵抗が弱くなってきた。
一度口を離す。
「はぁ……はぁ……」
艶っぽい杏の息遣いが僕の理性を壊していく。
「いきなりなにすんっ!!」
もう一度口を閉じて強引にキスをする。
二回目ともあれば杏はほとんど抵抗はしなかった。
むしろ受け入れていた。

口を離して僕は杏にこう言った。
「好きだよ」
「……」
杏は黙っている。

「まあ、無理やりにでも手に入れるけどね」
「え?」
僕の言った言葉の意味が分からないのかきょとんとしている杏を壁に押し付ける。
「い、いた。いきなりなにすんのよっ!」
僕は黙って杏の両腕を掴み、上にあげる。
「あんた、いいかげんにしなさいよ!」
杏の怒声が聞こえるが今の僕には関係が無かった。
「ふふふ………」
僕は笑いが止まらなくなる。
今から藤林杏を我が物に出来るのだから。
「さあ、我が物になるがいい」
「い、いやぁぁぁぁ!!」
この日杏は僕の物となった。
……はずだったのに。

「陽平♪ さあ行くわよっ」
「えぇ〜〜。もう僕だめなんっすけど……」
「あんたの意思なんて関係ないわよ」
「ひ、ひぃぃぃぃぃ〜〜!!」
どうやらこの前の出来事で杏の何かが目覚めてしまったらしい。

そして僕は今日も搾り取られる。
でも、悪い気分ではない。


「だってあんたがあたしを本気にさせたんだからねっ」

 

 

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