今日もいつものように杏がクラスに来ている。
理由は分かっている。
岡崎に会いに来たのだろう。
しかし、僕は居心地が悪かった。

何か言葉を言えば二人がかりで畳み掛けてくるし、無視をすれば何かしらアクションを無理やり起こされる。嫌な感じだった。

「ねぇ、あんたたちって好きな女の子のタイプは何?」
いきなり変な質問だった。
「いきなりなんだよ」
「いいから答えなさい」
ぴしゃりと言われたため少し考えてみる。
うーん、僕の好きなタイプねぇ……。
そんなこと考えたこともなかった。
僕はどんな子が好きなんだろう。

「まあ、一緒にいてつまらなくならない奴」
岡崎が僕より先に答えた。
「ふーん、そうなんだぁ」
杏が意味深に頷いている。
意味が分からない。
「陽平は?」
「僕は……」
このあと、あまり言葉を覚えてはいないが杏が赤面して僕の顔面に辞書を投げてきたことぐらいしか覚えていない。

「僕……なにかしましたかねぇ」
「お前はお前で悪くはないと思うぞ」
辞書を投げた張本人は投げた後スタコラサッサと逃げてしまった。
ったく、後で覚えてろよ。
いてて……
顔が痛む。
辞書が顔にめり込んだからね。

「しかし、お前も物好きだよなぁ」
岡崎が外を見ながら言う。
「なんで?」
「だって、お前ああいえば杏がなんかしてくるかってことぐらい分かるだろう」
「なんて言ったっけ? 僕」
「覚えてないのか? ……ふぅまあいい。教えてやるよ。お前は杏見たいな子がタイプかな? って自分で言ったんだぜ。そりゃ辞書ぐらい投げられるわなぁ」
そんなことを言っていたとは恐るべし自分。
まあ、それはあながち嘘ではないんだけどね。

はっきり言おう。僕は杏のことが好きだ。
この言葉に偽りはない。
それだけは言える。

放課後、帰る支度をしていると、杏が僕を呼んだ。
呼ばれるがごとくにどこかへ連れて行く。

着いた場所は屋上だった。
少しづつ夕日が照らし出てきて空が赤く染まりつつある。
そんな中僕たちは黙っていた。
はっきり言って気まずい。

「……」
「……」

こんな時間がいつまで続くんだろうと思っていたら杏がようやく口を開いた。
「あんた、あんとき言ったことってほんと?」
あんとき? ……ああ、杏見たいな子がタイプという話だろう。
「ほんとだよ」
これは嘘ではない。
「こんなあたしのどこがいいの?」
どうやら杏は自分の魅力が分かっていないらしい。
「僕はさ、いつもがさつで暴力ばっかふるってきて、なにかと言うことに文句ばっかつけてくる奴がさ。いつのまにか好きになっていたんだ」
ポツポツ話す僕に杏はえっ? と驚いた表情していた。
「そう、杏のことが好きなんだ。僕と一緒に残りの高校生活エンジョイしない?」
恥ずかしいが言えた。
少しの憧れから告白へと繋がるこの瞬間。
緊張感が漂っていた。
「……も。あたしも……のことが好きっ」
「はっきり言ってよ? 良く聞こえないよ」
「ああ、もうっ! 一度だけしか言わないんだからねっ。あたしはあんたのことが好きなのっ! 分かった!?」
「うん。ちゃんと聞こえてるよ」
そのまま僕は杏に近づいて抱きしめる。
「あっ……」
緊張が解けてきたのだろう。杏の顔から涙が流れてきた。
僕は大丈夫とだけ言って諭す。
こうして僕と杏は晴れて恋人同士となったのであった。


「ほら、陽平。あ〜ん」
「恥ずかしいよ。杏」
「あ、あたしだって恥ずかしいんだからね」
「分かったよ。あーん」

今、僕と杏の周りにはピンクのハートのオーラが出ているに違いない。

そして学校公認のバカップルとして認定されている。
 

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