今日は皆でお弁当を食べる日なの。
……でも、皆で食べるわけじゃないの。
だって……。

「待った?」
私の大事な人がいるから。

「ううん。そこまで待ってないの。むしろ今来たところなの」
取ってつけたような言葉を選び、喋る。
実は、一時間前にはここにいてずっと彼を待っていた。
約束の彼とは違うけれども、それでも私の大事な人には変わりはない。
私は彼のことが好きなのだから。

「なんか、その言葉結構待ってたような気がするんだけど」
ドキン
どうして分かったのだろう。
動揺をしてしまう。
それでも冷静に話すの。
「ま、待ってないのっ。さっき着いたばっかりなの」
やってしまったの。
動揺が隠しきれなくてつい声が裏返ってしまったの。
しかし、彼は笑って、
「そっか。じゃあ飯にしようか」
優しく私を励ましてくれるの。
そこが彼のいいところ。
春原陽平君なの。

陽平君とは、1ヶ月くらい前に初めて会ったの。
朋也君と一緒に馬鹿やったり、時には協力をしたりして、楽しそうな姿を見ているとこっちまで楽しくなっちゃうの。
しかし、椋ちゃんの乗っていたバスが事故をした(正確には椋は乗っていない)ことで私のトラウマが蘇ってしまったの。
そのときに陽平君は真っ先に皆に指示をしていた。
泣きじゃくる私を励ましたりもしてくれた。
でも、私はそれからまた心を閉ざした(皆に会いたくなかっただけだけど)。
しかし、陽平君は朋也君と一緒に昔の庭を蘇らせてくれたの。

そして、朋也君は昔会った男の子だったっていうのは最初から気づいていたけど、朋也君は気づいてはくれなかった。
寂しかった。
思い出して欲しかった。
昔私の家に迷い込んできた朋也君。

でも、思い出してはくれなかった。
……伝えなかった私も悪いわけだが。

それでも、頑張った。
告白もしたの。
でも、駄目だった。
朋也君は最後まで思い出してはくれなかった。
隣には渚ちゃんの姿があった。

ああ、私はすべてが終わったと思った。
世界が色褪せて見えた。

しかし、彼は私を励ましてくれた。
色褪せていた世界にまた色を取り戻させてくれた。

―世界はハープのように美しい―
お父さんの言葉が蘇る。
きっとこのことを言っているんだろう。
私は決心をした。
彼、陽平君と付き合いたいと。
彼の隣に立って彼と一緒に色んなものを見たいと。

そして、現在。
図書室で私は待っていた。
今は4時間目が始まってすぐだ。
陽平君は来ると言ってくれた。
サボりはしないから待っててと。

陽平君は進学をするらしい。
それはどうやら私と一緒の学校に行きたいからと言ってくれた。
受ける大学はとてもレベルが高い。
今の陽平君では無理だと言ったけど彼は諦めなかった。
今までのツケを返上するかのように人が変わった。
私が勉強を教えるようになってからぐんぐんと学力が上昇し、今では学年順位の上位クラスまで入るようになった。
変わり様に先生はもちろんのこと、他の生徒たちまでびっくりしていた。
それほどまでに彼の熱意は本物だった。

1月にはB判定までもらえていた(私はA判定)
しかし、勉強ばかりしていたわけではない。
休日にはデートもしたりして気分をリフレッシュもしたりした。
たまに杏ちゃんに会ってからかわれたりもしたけど。
そんな毎日が私には宝物だ。

合格発表の日。
陽平君と私は晴れて大学生になった。
今は一緒に楽しいキャンパスライフを送っているの。
今は昼。

「今日の弁当は?」
「今日はさっぱりとサンドイッチにしてみたの」
ぱかっとバスケットの蓋を取るとパン独特の匂いとトマトや卵、カツなどの香ばしい匂いが香る。

「いつも悪いね。ことみ」
「ううん。私が好きで作ってるだけだから気にしないで欲しいの」
「そう? じゃあ今度のデートは僕が作らせて貰うよ」
「楽しみにしてるの」
今度の休みが楽しみになった。

こんな毎日が続いている。
そんな生活が今の私の宝物だ。

 

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