薄暗い雲が空いっぱいに張り巡らされ、雨が降り続いている午後。
 これは現在の自分の気持ちを表しているのだろうか、そう思いながら窓から外を見つめる。
 天気予報ではもうすぐ晴れるとはいっていたものの、もし自分の気持ちとシンクロしているのならもうしばらく晴れることはないだろう。
 それくらい、今日という日は不安でいっぱいだった。

「どうしたんですか。らしくない顔をして」

 そう声をかけたのは彼女の後輩であった二木佳奈多だった。

「かなちゃんか、そりゃ不安にもなるわよ私だって」
「まあ、仕方ないですよね。明日、なんですから」
「そう、明日なのよね。結婚式……」

 今日になるまで挨拶に準備にと大忙しだったものの、突然前日になってぽっかりと穴の開いたように暇になってしまった。
 やることがなくなると人は自分を見つめなおす。そして、これでいいのか、本当にいいのかと自問自答する。
 マリッジブルーなんて自分とは無縁と思っていたのだけれど、いざそうなるとあっさりとかかってしまった。なんとなく、なさけなく感じてしまう。

「大丈夫、ですよ。そんなに心配しなくても」

 彼女はそういって近くにあったソファに据わる。彼女のお腹は大きく膨らんでいた。
 そう、彼女は私よりも早く結婚していた。学生時代仲良くなった子、私にとっても印象深い直枝理樹君って子と。
 後輩だけど、人生で語るなら先輩といえるだろう。
 事実、彼女はとても大人びて見えた。全てを拒むようだった彼女が、今は全てを包むかのようなあたたかさを持っている。
 結婚とは、ここまで人を変えるのか。私もここまで変わることができるのか。
 不安は、不安を呼ぶ。

「そう、かしら」
「ええ。あーちゃん先輩は好きな人と結婚するんですよね」
「うん、まあ」

 私の好きな人。
 直接そう言葉に出されるとあまり実感がわかないけれど、それでも一番たくさん傍にいて、一番居心地が良かった人。
 それはきっと、好きな人ってことなのだろう。この実感のわかなさが私を不安にさせている要素なんだけれど。

「好きな人と結婚する。それほど幸せなことってないですよ」
「ふーん、まさかかなちゃんにそういわれるとはねえ」

 意外にもほどがある。まさかここまで愛にのめり込む子だったとは。

「ええ、だってとっても幸せですから」
「経験者は語る、ね」
「ええ。だから私たちがお世話になった人達には是非、幸せに思ってほしいんです。新郎も、新婦も」

 ああ、そうか。そういえば彼女の旦那様はあいつに色々引っ張りまわされてたっけ。

「私の夫はあっちに会いにいっているんですよ。もしかしたら、こちらと似たような状況かもしれません」
「まさか、あいつに限ってそんなことは――」

 ない、とはいいきれなかった。
 こちらと同じように不安になってて、それを後輩に励まされて。

「ふふっ」

 ついおかしくなって笑ってしまう。先輩として先頭を歩いてきた私たちが、今度は後輩に後ろを押されている。

「こりゃ、いい結婚式にしないとね。私もあいつも、そしてみんなが幸せな結婚式に」
「ええ、是非お願いします。先輩たちなら、きっとできます」

 再び空を見る。雨は止み、薄暗い雲から光が差してきている。
 もし仮に気持ちとシンクロしているなら、明日はきっと快晴だ。
 だって明日は、みんなが幸せになれる結婚式なのだから。

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