朝というのはゆっくり寝ていたい。
しかし、今日は大事な日だ。
寝坊なんか出来ない。
などと思いながら携帯の時計を見る。
『AM11:00』
俺は目を疑った。
ごしごしと目を力任せに擦る。
そして、もう一度携帯を確認する。
『AM11:00』
「………なあああああああっ!!!」
集合時間は朝の10時。
完璧たる遅刻である。

 

 


「はぁ……。遅いわね」
待ち合わせの場所で一人佇んでいる人物が一人。
いつもの制服ではなく、私服である。
そのギャップで恭介はやられたのだろう、きっと。
腕を組みながら自分の彼氏を待っている。
時々、指をトントンと自分の腕を突っついているあたり少し怒っているのだろう。
顔もむすっとしており、元々無愛想な顔がさらに無愛想になっている。
しかし、心配なのだろうかうろうろと歩き回っている。
「はぁ……」
少し大きくため息をつく。
「早く…来てよ。恭介……」

以外に佳奈多は独占欲が強い。
この前の食堂でもそうだった。
「恭介。あーんしてよ」
「へいへい、……あーん」
恥ずかしながらの行動を繰り返している。
見ているこちらが恥ずかしく思えてくる。

「まったく、見ているこちらが恥ずかしいぞ」
「そうだ、そうだー! お姉ちゃんと恭介くん、私も混ぜてよー」
「いやいや、葉留佳さん。二人の邪魔をしちゃだめだよ」
理樹が葉留佳を嗜める。
「だって〜、ああゆうのって憧れるじゃないですかー」
「たしかにそうだね。恋人ってああゆうのやってそうだもんね」
葉留佳がふと思いついた言葉を口から出す。
「じゃあ、さ。理樹君。私からの奴受け取って貰える?」
葉留佳は自分のおかずを箸で取って理樹のほうへ箸を向ける。
「ええ〜」
あははと困った表情になる理樹。
「それでは次は私だな」
唯湖も葉留佳と同じように箸を理樹のほうへ向ける。
「ええ〜、二人ともどうしたのさっ」
二人からのアプローチに困り果てている理樹。
「なぜって、ねぇ」
「うむ」
二人は顔を見合わせて互いにふっと笑う。
「「私たちは理樹君が好きだからね(な)」」
互いに己を高めあう。
それがライバルというものなのだろうか。

「馬鹿だな」
鈴の一言がずばっと空気を切る。
「いいなぁ〜、かなちゃん」
指をくわえて恭介と佳奈多のやり取りを見ている小毬。
「羨ましいです〜。私だって…」
少し決意を固めるクド。
そして一息をつく。
意を決してクドは行動に出る。
「あ、あのっ! 井ノ原さんっ。こ、これっ」
すっとおかずを掴んだ箸を真人に出す。
「ん? おお、かつだなっ! ありがとな、クド公」
ぱくっと勢いよく食べる。
しかし、真人はクドの気持ちには気づいていないだろう。
クドが純粋な気持ちをぶつけても、真人はかなりの鈍感である。
しかし、クドは嬉しそうな顔をしている。
結果はオーライなのかな?


「ふっ、羨ましい限りだな」
「じゃあやってみますか?」
美魚が謙吾にからかいを交えて謙吾に言う。
「ほ、ほんとか? 西園」
「いえ、冗談ですけど」
「うおおおおおおっ!!!」
椅子から転げ落ちてごろごろと横転がりをする。
「ふふっ、これだから宮沢さんはからかいがいがあるんですよ」
小悪魔な笑いをする美魚。
その一部始終を見た理樹は少し美魚に態度を改めようと思った。

 

恭介はその間一口だけ佳奈多から食べ、それ以外は他の皆のやり取りを見ていた。
「ねぇ、恭介?」
「ん、なんだ? 佳奈多」
恭介が佳奈多のほうを見るとこめかみに青筋が出ている佳奈多の姿が見えた。
その迫力に押される。
「な・ん・で私より他のメンバーを見てるのかしら?」
「わ、悪い。なんか皆の様子が気になってよ」
「ふーん、やっぱり私よりもリトルバスターズのメンバーのほうがいいのね?」
「そ、そんなわけ…」
「言葉だけじゃ信じれないわ」
ぴしゃりと佳奈多が恭介の言葉を遮る。
「そうね…。やっぱり行動で示して欲しいわね」
「こ、ここでか?」
「そう、ここでよ」
揺るぎない瞳で恭介をじっと見ている。
恭介はふぅ、と軽く息を吐き出して、
「分かった」
と肯定する。

そのまま恭介は佳奈多の耳元で、
「好きだぜ」
小さく言った。
佳奈多は顔を少し赤くして、
「まあいいわ」
と一言言った。

「おうおう、いいねー。羨ましいぜ。こんちくしょう!」
「まったく、君たち二人にはバカップルの称号がお似合いだな」
葉留佳と唯湖がちゃかしに入ってくる。
それに居た堪れなくなったのか恭介と佳奈多は逃げるように食堂から出て行った。

「じゃあ、次の日曜10時に――で集合ね」
「了解だ」
とデートの約束だけしてその日は終わっていった。


「くそっ、怒ってるだろなぁ。佳奈多の奴」
急いで着替えて家を飛び出すように出てきた恭介。
走ること10分ぐらいだろうか、なんとか待ち合わせ場所につくことが出来た。
「わ、わりぃ…。はぁ…はぁ…」
よほど急いで来たのだろうか、膝に手を置いて肩で息をしている。
「遅刻よ。私がどれだけ待ったか分かってる?」
「い、一時間ぐらいか?」
「二時間よ」
恭介は言葉が出なかった。
「……まじ?」
「まじもまじおおまじよ。楽しみだったんだから…」
最後の部分は恥ずかしいのだろう。
小さく呟くように言っている。
「そっか…。そりゃすまんかったな」
頭を下げる。
「ま、まあ来てくれたから許してあげるわ」
「じゃあ、行くか」
「ええ」

二人はどちらからでもなく二人同時に手を出して繋いだ。
これが二人の自然なのだろう。
そして、二人は特に目的地があるわけじゃないのでとりあえず歩き始める。
また一歩、二人は心を通い合わすことに成功したようだ。

 

 

「へぇ、中々やるなぁ、恭介」
「まったくだな。理樹君私とそ、そのなんだデートしないか?」
「あー、姉御抜け駆けは駄目デスヨ!」
「ちょ、ちょっと二人ともやめなよ。尾行がばれるって!」
少し後ろから騒がしい声。
理樹、葉留佳、唯湖の三人は二人の様子を盗み見ていた。
「しかし、恭介君もお姉ちゃんのどこを気に入ったんだろうねぇー」
「さあな。人には人を選ぶ理由があるというものだ。その辺は気にしてはだめだと思うぞ?」
「だよね。僕も今誰が好きなのか良く分かってないし」
不意に理樹の両腕が絡め取られる。
「よし、それじゃお姉さんが理樹くんをエスコートしてあげよう」
「理樹君、出発だぁー!」
「ええーー!! どこに行くのさっ。尾行は!?」
理樹のツッコミに二人は、
「ぶっちゃけて言うと」
「飽きたんデスヨ。てか二人の邪魔しちゃ悪いっしょ」
阿吽の呼吸で理樹に言う。

「はぁ……」
理樹はため息をつき、ふと空を見た。
曇り一つないいい天気だ。
こんな日にデートも悪くないか。
「それじゃ行こうか。来ヶ谷さん。葉留佳さん」
「ラジャーですよ!」
「ふむ、では行こうか」


空は快晴、この日はいいデート日和になりそうだ。
二組のカップルがどうなったかは本人たちにしか分からない。
 

inserted by FC2 system