最近お姉ちゃんが構ってくれない。
せっかく仲直りをしたというのに一緒に居れないというのは結構寂しいものである。

そんなときだった。
あんな噂が流れたのは……。

井ノ原真人と二木佳奈多が付き合っているという信じられないような噂の内容だった。

「お姉ちゃん!」
バンと云わんばかりに勢いよくお姉ちゃんの部屋の扉を開く。
いきなり開くもんだからお姉ちゃんはびっくりしたような感じな顔だった。
「どうしたの? 葉留佳そんなに慌てて」
びっくりから落ち着いたというかあまりびっくりしていなかったお姉ちゃんが聞き返す。
「真人君と付き合ってるってホントですかっ!?」

…………
あれ?
なんか空気が固くなった気がする。
聞いちゃいけないことですカ?
お姉ちゃんはふぅと溜息をつく。
「なに? 葉留佳いまさらだったの?」
なんですと?
「え? じゃあ……まさか」
「ええ、真人と付き合ってるわよ」
はっきりと言い切った。
「ええぇ〜〜〜〜っ!!」
心底私はびっくりしましたヨ。
だってあの筋肉と堅物風紀委員長ですヨ?
これを驚かないでどうしますか。
「他のメンバーはもう知ってるのに……」
その言葉で私は固まってしまう。
知らなかったのは私だけ?
なんとそんなにも情報が伝わるのは遅かったのかっ!?
とそれは置いといて、
私はお姉ちゃんの真意が知りたかった。
だからあんなことをしたのかも知れない。

今考えるとその行動が私を大きく変えるわけになるのだけども。


ある日だった。
いつものようにお姉ちゃんが惚気話をしに来た。
ちなみにもう一週間が経とうとしていた。
正直ウンザリですヨ……。
話しているお姉ちゃんの姿はあどけない子供のように笑って話している。
そんな姿を見ているとやっぱりお姉ちゃんはむすっとしているよりもこう楽しそうにしているほうがお姉ちゃんらしく見える。

「次の休日、真人とデートするのよ」
「へぇ……」
どうでもいい話だ。
私には関係ないのだから……。
「ふふ、遊園地でデート」
かなり浮かれている。
ご機嫌だった。
ふと気づいた。
これって逆に考えるとチャンスではないのかと。

真人君がお姉ちゃんにどんな姿を見せているか知らないけどこれは真人君の心を探るにはいい機会ではないかと思う。
そうと決まれば即行動に移そう。
「それって何時集合なの?」
「え? 10時駅前集合よ」
ぱっと答えてくれる相当機嫌がいいと言うか気前がいいと言うか……。
なんとも複雑な気分だった。
「ふーん、頑張ってね」
「ええ、もちろんよ」

次の日曜が楽しみですヨ。
フォフォフォ……。

―次の日曜―

私は駅前にいた。
そう、お姉ちゃんに変装をして……。
これで真人君と一日いればお姉ちゃんの真意も分かるし真人君がどのような人物かも分かる。
一石二鳥ってやつですな。

「おう、待ったか?」
集合時間ギリギリ真人君がきた。
今からお姉ちゃんと言う仮面を被る。
「私も今きたところよ」
「そうか……。じゃあ行くか」
「ええ」
我ながらうまい具合な演技だと思う。
自分でもそっくりだと思う。

で、電車で揺られること約30分。
遊園地に着いた。

「ん」
真人君が手を伸ばしてくる。
「なに?」
良くわかんなかったから思わず聞き返してしまった。
「手を繋ぐんだよ。遊園地は迷子になりやすいからな」
ニッと笑う真人君に思わずドキッとしてしまう。

あれ? なんでドキッとしてるの私…。
不思議な気分だった。
「ほら、行こうぜ佳奈多」
「え、ええ」
手を繋いだ手は大きくて暖かかった。

それから時間まで精一杯遊んだ。
ジェットコースター、コーヒーカップ、メリーゴーランド、お化け屋敷とたくさん遊んだ。
そしていつしか私は真人君に惹かれていた。

そこに一人影がポツンとあった。
私に良く似た姿。
思わず声を出してしまった。
「お姉ちゃん……」
別に怒っているようには見えないし顔は良く見えないしで心情が分からない。
「あれ? 佳奈多が二人? どっちが本物なんだ」
こんなときに真人君がボケるとは……
空気を読んでほしいですヨ。

「真人……」
お姉ちゃんは震えた声で真人君の名前を呼ぶ。
「ん?」
私とお姉ちゃんを交互に見る。
そして一言。
「気づかなかったぜ。まさか隣が三枝だったとわな。やっぱ双子なだけはあるよな」
わははと豪快に笑っているが正直笑い話ではない。
「お姉ちゃん」
びくっという反応をして顔を上げる。
「なに?」
「私、諦めないよ」
「どうゆうこと」
「たとえ二人が付き合ってたとしても今日私は真人君のことを好きになったから。たとえスタートが遅れたんだとしてもこれから詰めていけばいつかは……」
言葉を言い終える前にお姉ちゃんが口を開く。
「ふーん、せいぜい頑張ることね」
ふっとすかした笑いをする。
「負けないから」

そう、今から私とお姉ちゃんはライバルとなる。
一人の男の子を巡って……。

「じゃあ最後に三人であれ乗るか」
真人君が指差すのは観覧車。
最後に相応しい乗り物だった。
「いいですヨ」
「いいわよ」

ここから始まるのだろう。
私とお姉ちゃんと真人君の三角関係が……。
でも私は負けない。
たとえお姉ちゃんという固い壁があったとしても壁があるならそれを乗り越えていけばまだ勝機はある。
戦いは今から始まるのだから。


 

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