「ふぅ……」
溜息を一つ。
そして目線を手にある一つの本に向ける。

ブックカバーが掛けられており、中が見えない状態で渡された。
西園さんに。
「おすすめですので、ぜひ」
と言われ断れなかった私はしょうがなく受け取り今に至るわけである。

時間があるから見てもいいのだけどもなぜか嫌な予感がしてたまらない。
読んだら引き返れなさそうなそんな感じだ。
しかし、中身が気になる。
結局、好奇心に負けた私は廊下で窓側にもたれかかり読むことにした。
ぺら……パタン
開いて一ページ目で即閉じた。

「な、なんで直枝理樹と棗先輩なのよ……」
そう、書かれていたのは直枝理樹と棗先輩の絡みである。
それも濃厚な絡み。
閉じた本を再度開き私はしばらくの間見入ってしまった。

「……」
ぱたんと見終えたときには私はほわーとしていた。
なんかこの組み合わせいいかも……。
などと思ってしまう。
普段ツッコミである直枝理樹を攻めにして棗先輩を弄る。
新鮮味があって面白かった。
途中危ないシーンがあったがそこもまじまじと見てしまった。


なぜか絡み合う二人を想像してしまった。

『恭介。なんで僕以外の人と話してたのさ』
『そ、それはあっちから話し掛けてきたから』
『ふーん、恭介は僕の言うことが聞けないんだ』
『ち、違うって。俺は理樹のこと……』
『そんな言葉聞き飽きたよ。行動で示してもらいたいな。だからいつものやってよ』
『……ここでかっ!?』
『そうだよ。出来るよね? なんてったって僕の恭介だもんね』
『……分かったよ。理樹の頼みだもんな』

「おいっ! 二木! 聞こえてるか?」
「二木さん。大丈夫?」
「はっ……!」
声に我に返る。
どうやら妄想に浸っていたらしい。
私としたことが……。

と目の前にはさきほどまで妄想をしていた二人。
私は二人を見ることが出来ない。
……だって恥ずかしいし。
「おい、二木。大丈夫か?」
「え、ええ。少し頭がぼーっとしただけよ」
なんとか顔を見ないで言葉を返す。
「顔赤いよ? 熱でもある?」
直枝理樹がこちらを心配するように覗き込む。
「っ!」
やぱいやばいやばいやばいやばいやばいやばい
こうして話かけられている間にも頭の中では脳内妄想は続いている。
もう、この二人とは話さないほうがいいと思い去ろうとする。
「待てって」
がしっと棗先輩に腕を掴まれる。
「な、なんですか?」
あくまで冷静に聞き返すも内心はハラハラである。
いつこれがばれるか分からないし分かられたくもない。
本を持っていること自体気づかない二人のほうがおかしいと思う。
「なぁ、さっきから気になってたんだがその手に持ってる本ってなんだ?」
やっぱり分かってたか。
といっても分からないほうがおかしいか。
「これは西園さんがくれたんです」
「へぇ、珍しいね。西園さんがただで本をあげるなんて……」
「たしかにな。俺も何回か借りたことはあるけど貰ったことはないからな」
二人が話している。
今は妄想は治まっているもののやはり理樹攻め恭介受けはいい!

「では、私は仕事があるのでこれで失礼します」
「ああ、またな」
「またね。二木さん」

二人と別れ、また本を見る。
やっぱりこの組み合わせいい!
などと思ってしまうのであった。


「ふふ、大成功です。これであの風紀委員長はあの直枝×棗にはまりましたね。さて、次は誰にしましょうか……」

体の胸あたりに何冊か同じ本を持って美魚は不敵に笑うのであった。

 

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