チュンチュン……
鳥のさえずりが聞こえる。
「う、ん…」
目を開けて、携帯の時計を確認する。
「朝7時か」
もぞっと布団から出て、一回伸びをする。
部屋のカーテンを開けて外を見てみる。
雲がない快晴と言える天気だ。

「ちょっと、食堂で飲み物でも飲みに行こうかな」
ふと思い、僕は食堂へと足を運ぶ。
真人は…まあいいや。
どうせ今日は休みだし、ゆっくりさせておこう。
さてと行くかな?

 

食堂に着いて誰かいないか周りを見てみる。
黄色い星型のリボンを着けている見知った人物を発見した。
僕は迷わず声をかける。
「小毬さん。おはよう」
ぴくっと体を反応させるも知ってる人だったので安心したような様子になる。
「あ、理樹君。おはよう」
いつものにこにこ顔で返事をしてくれる。
「うん、今日は早いんだね」
「たまたまだよ〜。一度起きちゃったらなんだか寝られなくなっちゃって…」
えへへと笑いながら言う。
こういってはなんだけど、小毬さんのこの笑顔はやばいと思う。

この笑顔を他の人にも見せていると思うとやはり僕はまだ小毬さんの横を歩いていける男じゃないんだと認識する。
もっと、頑張らないといけないなと思う。

「あれ? 理樹君。それって…」
僕の持っているコップの中身を指差して言っているようだ。
黒くて、ほろ苦い眠気覚ましには丁度いいと思って持ってきた飲み物だ。
「うん。眠気覚ましには丁度いいと思ってね」
「でも、ブラックってかなり苦いよね」
たしかにそれはそうだけど、なぜか僕はブラックしか飲めないのだ。
紅茶も嫌いじゃないけど、どちらかと言えばコーヒーのほうが好きだ。
「そういう小毬さんのは?」
小毬さんもコップを両手でぎゅっと握っている。
「ココアだよ。甘くておいしいよ〜」
なるほど、小毬さんらしいな。
元々小毬さんは甘いもの好きだからコーヒーよりは紅茶やココアのほうが好きなんだろうな。
「はぁ、ふぅ…」
小毬さんは味わうようにゆっくりと飲んでいる。
その顔はかなり緩んでいる。
どれだけ緩んでいるかというと、目が一本線でゆるゆるな波が出ているくらい緩んでいる。
それくらい味わって飲んでるんだろうなと思いながら僕もコーヒーを一口飲む。
ほどよく苦い味わいが僕の口に広がる。
うん、いつものブラックの味だな。
などと思いながら小毬さんと一緒に飲んでいる。

「お、理樹に小毬じゃねーか。二人で仲良く何やってんだよ」
恭介も片手にコップを持ってこちらに近づいてくる。
「ほわっ!? な、仲良くなんてしてないですよ〜。たまたま一緒になっただけだよ〜」
手をブンブンと振りながら力いっぱい否定する小毬さん。
なんか、少しショックな気分になった。
そこまで否定してなくてもいんじゃないかな?
「ブラックか…。よくそんなの飲めるな。理樹」
僕のコップを覗き込みながら言う恭介。
「そういう恭介は?」
「俺か? 俺は…」
ほれっとコップの中身を見せてくる。
「あ、あー、そうだったね。恭介大好きだもんね、それ」
「おう! 俺はこれあればあとは他に何ものみもんにかんしてはいらねーぜ」
それだけ力説する恭介のコップの中身は普通にコーラだ。
まごうことなき何も捻りもない。
「ふえ? 恭介さん。コーラ好きなんですか?」
「ああ! これさえあればあとは何もいらないといっても過言じゃないほどのコーラは好きだぜ」
力説している恭介に小毬さんはふえーっと驚いていた。
「でも、恭介さん。ココア以上に勝るものはないですよ?」
「はっ、だったら飲ませてくれよ。そのコーラに勝るとも言えるココアをよ」
「じゃあ、これどうぞ〜」
今まで小毬さんが飲んでいたコップを恭介に渡そうとする。
「よしっ、じゃあ貰うぜ。この最高のココアってやつをよ!」
ごくっと一口飲む。
「……っ! ま、まさか…!」
「えへへ、どうです? 恭介さん。これでもコーラが好きって言えますか?」
恭介の顔が一瞬で豹変した。
余裕だった顔が焦りの表情になる。
「どうしたのさ。恭介。さっきまでの余裕な表情はどうしたのさ」
「理樹…。お前もこれを飲めば分かる」
コップを渡される。
恐る恐る飲んでみる。
「っ!」
こ、これはっ! ココアの中にさらに砂糖!
「あまっ!」
「ああ、甘いぜ。甘すぎるんだよーー!!」
「ふええええ!!」
三者三様の反応をする。
僕は甘すぎるココアに甘いの一言を。
恭介は甘すぎるせいか人がいるのも気にせず叫んでるし。
小毬さんは僕たちの反応が予想外だったのか驚いている。
「……ま、まあまずくはない」
「…そうだね」
「それは良かったですよー」
ほっと胸を撫で下ろす小毬さん。
「しかし、だ。小毬。これはいくらなんでも甘すぎだろ」
「これぐらいが丁度いいんですよ? それ以上それ以下はココアじゃないですよ?」
こ、これが小毬さんの普通のココアなのか?
甘ったるすぎて今飲んでいるコーヒーまで甘く思えてくる。
うう、糖尿病にならないといいけど……。

「小毬。もう少し大人になろうぜ」
「ど、努力はしてみます」
「よし、じゃあまずは一緒にコーラを…」
なんだか恭介に小毬さんを取られた気分だ。
それでいいのか? 僕。
いや、いいわけないだろう。
僕は、僕は……
「コーラよりまず紅茶から行こうよ」
恭介の言葉に割り込むような形で言う。
「ま、待ってて。紅茶よりもコーラのほうが」
「じゃあ、紅茶飲もうかな?」
「そうしよう。じゃあ持ってくるからそこで待ってて」
「分かったよ〜」
僕は紅茶を取りに少し席を外した。

「理樹が…理樹が…理樹がああああああ!!」
恭介はそのまま立っていたかと思うと僕の名前を叫んで食堂から出て行ってしまった。
きっとほとんどの人が状況を掴めていないだろう。
僕もその一人だから。

「はい、小毬さん」
湯気が立っている紅茶のコップを小毬さんに渡す。
「ありがと〜、理樹君」
それ受け取ってさっそく飲む。
「うん、おいしいですよ〜」
喜んでもらえたのなら良かった。
次はカフェオレに挑戦してもらおう。

なんとかあの甘いココアから離れてもらうためにね。

 

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