俺は、食堂で飯を食っていた。
今日は一人だ。

理樹たちは、この前事故で修学旅行が中止になったからまた修学旅行に行くという話らしい。
で、今はもう出発していったあとだ。
俺も行きたかったがこの前の事故で出席日数が足りないので行きたくても行けなかった。

寂しいよな……。
いつも騒がしかった食堂がいまではこんなにも静かだ。
理樹、鈴、真人、謙吾……。

あの事故で理樹、鈴が強くなった。
俺たちの助けがいらないくらいに……

しかし、やっぱり二人はいつまで経っても俺離れは出来ないのかたまに俺に相談をしにくる。
そのたび俺は自分たちで考えろと言い返している。
いい加減理樹と鈴も自分たちで未来を考えて欲しいもんだ。
二人は付き合ってるんだからな。
ふっ……。

こう考えているということは逆に俺があいつら離れ出来てないのかもな。
あいつらが帰ってきたらリトルバスターズのリーダーを理樹に渡そうと思っている。
もう、季節で言うと秋が過ぎて冬に近づいてきている時期だ。

俺もいい加減に就職を決めないとやばくなってきたからな。
今の時期決まっていないのは俺と、大学を受ける奴ぐらいだろう。
大学はセンター試験が2月ぐらいにあるらしいからな。
などと、考えている間にも時間はもういい時間を指していた。

俺は急いで飯を腹に入れて教室へと向かう。

そして、そのままつまらん授業が始まる。
俺は休んでいたのもあるからこの辺はあまり詳しくない。
基本は出来てるが応用になるとちんぷんかんぷんだ。

だから、俺は外を見る。
雲ひとつない快晴だ。
今頃は理樹たちは楽しんでるのか?
少し心配になる。
しかしその心配もすぐに杞憂になる。

ま、あいつらならどこでも馬鹿出来るか。
筋肉ネタの真人に、どこかネジが外れた謙吾、ツッコミの理樹に、小毬たちならもう俺がいなくても大丈夫だ。
……まあそれはそれで寂しんだけどな。

そして、そのまま今日の授業が終わる。
俺は寮に戻ろうとしたときだった。
「あー、棗。ちょっといいか」
「何ですか?」
珍しく担任に呼ばれる。
俺何か悪いことしたっけ?
頭で思い浮かべてみるも思いつかなかった。
もしかして、まさかの留年!?
いやいや、勘弁してくれよ。
俺は理樹にリーダーを任せて潔く去るつもりなのに。
そのまま理樹たちと一緒の学年になったらどれだけボカスカに言われることか。
想像するだけでブルーな気分になる。
特に鈴は言うだろうな。
やっぱり馬鹿兄貴は馬鹿兄貴だな。
とか言われそうだ。

「ここでは話づらいから、少し歩きながらでいいか」
「判りました」
取りあえず了解を出すと担任はどこかに向かって歩き出す。
俺はその後を追うかのように着いていく。

コツコツ……
歩きながらといいながら担任は終始無言だった。
しかし、その顔は辛そうな顔をしていた。
なぜか俺はいやな予感がした。
着いた先は屋上に続く階段だった。
「このへんでいいか」
「で、話ってなんですか?」
俺は嫌な予感がしたが聞かないことには何か判らないため早く話の内容が聞きたかった。
「お前には非常に辛い話だ」

その話を聞いた後俺は絶望をしてしまう。

「その、お前妹さんいただろ?」
「は、はい。いますけど……」
そのことだろうか。嫌な予感がする。
「妹さんのクラスのバスが崖から転落したんだ」
な、なんだって?
「もう一回お願いできますか?」
「妹さんたちを乗せたバスが崖から転落、乗っていた乗員は皆死亡だそうだ」
う、嘘だろ。
誰か嘘だと言ってくれよ。

理樹たちが皆死んだ?
俺には信じられなかった。
「俺も、耳を疑ったんだがな。どうやら事実らしい。皆逃げる暇もなく、即死だったそうだ」
辛そうな声で話を進めていく担任の言葉。

頭でグルグルと言葉が駆け巡っている。
理樹、鈴、真人、謙吾、小毬、能美、来ヶ谷、西園、三枝……皆死んじまったのかよっ!

「妹さんたちのクラスのバスが一番後ろを走っていたから他のクラスの先生方も確認が遅れたらしい」
「それは、他のクラスは無事だったってことですか?」
「ああ、そうだな。さっき二年の学年主任からの連絡だ。間違いはない。それで修学旅行は中止、今戻って来ているらしい」
「そうですか……」
冷静に返すも俺の頭はパンク寸前だ。

ていうか、冷静で入れるはずがない。
理樹たちが強くなった矢先にこれかよっ!
くそ、くそ、くそっ!
勢いに任せるまま壁を殴る。
「お、おい! 棗!」
「これが、落ち着いていられるかよーーーーっ!!」
そのまま担任をそこに残したまま俺はどこか当てもあるわけじゃなく走る。

誰か、嘘だと言ってくれよ。
そんな事故なかったって言ってくれよ……
「頼む……。理樹たちを返してくれよ……」
知らない間に涙を流れていた。
そりゃ、悲しいに決まってんだろうっ!
子供のときから遊んでいた親友を失くせば誰だって悲しいに決まってる。
小毬たちだってそうだ。
知り合った時間は少ないかも知れない。
だけども、あいつらもリトルバスターズのメンバーだ。
メンバーを一気に9人失くしたのは惜しい以前の問題だ。

「あいつらは、まだ俺よりも生きてないんだぜ? この前みたいに奇跡は起きないのかよぉーーー!!」
一人叫ぶ。
答えは返ってこない。
当然だった。今この世界は現実世界であって、前俺たちが作った幻想の世界じゃない。

「は、ははははは……」
渇いた笑いしか出てこない。
そして、俺は塞ぎこんだ。

次の日、バスが帰ってきた。
その中に理樹たちの姿はなかった。
当然だ。理樹たちはもういないのだから……。

「っくしょー!!」
今日は授業を受ける気分じゃなかったからサボった。
次の日も……その次の日も……。

それが一週間ぐらい続いただろうか。
ふと、思い出した。
三枝は違うクラスだったということを。
いつも遊びに来てるので思い出すのに時間がかかった。

それを思い出したと思ったら俺は無意識に駆けていた。
二年の教室を片っ端から調べる。
変な目で見られようと今の俺には関係はない。
三枝……無事でいてくれよっ……。

端の教室で最後だ。
ここにいるはずだ。
俺は意を決して教室のトビラを開ける。

いた。
俺は確認をする前に声をかける。
「三枝」
ぴくっと肩を震わせる。
「なあ、三枝」
「……」
顔を合わせようとしない。
三枝の性格からは想像出来なかった。
しかし、声をかけていくうちに違和感を感じた。
こいつは三枝なんだろうか、と。
それは確認すればいいだろうと思い声をかける。
「なあってば」
「……っるさい」
「は?」
「うるさいって言ってるのよっ!」
くるりと回って、三枝は俺に平手で叩く。
頬に鈍い痛み。
「ってぇな。何すんだよっ!」
クラスのやつらは何事かとこちらを見ている。
しかし、その姿を見て俺は驚愕する。
「三枝……じゃない」
そう、左腕に赤い腕章、風紀委員長である証。
三枝じゃなかったのか。
絶望と失望が同時に込み上がってくる。
風紀委員長の名は二木佳奈多。
「私をあんなやつと一緒にしないで!」
それだけ言い捨てて走ってクラスから出て行く。
俺はそう姿を見ることしか出来なかった。
「あの、先輩」
二木が出て行った後、クラスのやつに話かけられた。
「ん? なんだ」
「三枝さんなんですが、いつも遊びに行っているクラスのバスに乗ってしまって……」
「そうか……」
メンバーは全滅か。
「ありがとな」
俺はそれだけ言ってクラスを出ていく。

「……」
廊下に出ると、睨み付けるかのようにこちらを見ている二木の姿があった。
「さっきはすまなかったな」
「別に構いませんよ。気にしてませんから」
かなり棘のある言い方だった。
「その、なんだ。三枝に見えたからああ言っちまった」
俺は頭を下げる。
「三枝葉留佳は死んだ。ここにいるのは二木佳奈多です。次から間違えないようにお願いします」
そういってクラスに入っていく二木。
俺はその場を後にした。

俺は意味もなく中庭にいた。
「ふぁ……」
無意識のうちに欠伸をしている。
寝よう……。
起きたら理樹たちがいることを祈ろう。
あのときのように理樹たちが俺に手を差し伸べてくれるはずだ。
そう、あのときのように……。
意識が遠のいていく。
目の前が真っ暗になり、俺は深い眠りに入る。


夢…
それは幻想にしか過ぎない。
起きたことはもう誰にも戻せない。
誰にも……


落ちていく……
意識がどんどん下へと落ちていく。
どこまで落ちるのだろうか?
奈落の底か?
それとも、地獄か?
否、どこでもない。
自分の殻という逃げ場所に逃げる。
そう、引き篭もるように……
誰の目にも届かないようなそんな場所に……
俺は逃げようとしている。

ふと、きらりと光が見えた。
俺はそれを掴もうと手を伸ばす。
パシッ!
よし、掴んだ!
そのまま俺はぐいっとこちらに引き寄せる。


「きゃっ!」
さっき聞いた声。
ゆっくりと目を開ける。
夕焼けが少し眩しく、目を細める。
少しずつ、慣れてきて良く見てみる。
そこには、二木の姿があった。

「ふた……き?」
まだ目を覚ましきってないのか、疑問系になってしまった。
「なんですか?」
声がやけに近い気がする。
「どうしてお前がここにいるんだ?」
「あなたがここにいるからですよ。中庭の芝生は昼休み以外は立ち入り禁止ですから」
冷静に、そんでもって冷淡に二木は話す。
そういやそうだったな。
「それと……」
ん? まだ何かあるのか?

「あなたが離してくれないせいで私とあなたが抱き合っているかのように見えるんで早く離して下さい」
見ると、俺の右手は二木の腕を掴んでいた。
そんでもって俺が引き寄せたのか二木が俺と向き合っている形になっている。

「わ、わりぃ」
ぱっと手を離す。
二木はゆっくりと立ち上がって俺の目の前が仁王立ちをしている。
ふぅとため息を一回ついている。

「まあ、別に今回はいいです。次回から気をつけてください棗先輩。それでは」
それだけ言って二木は教室のほうへと向かっていった。

俺は二木の姿が見えなくなるまでずっと見ていた。

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