理樹たちを失ってから時間が過ぎるのが早く思える。
そう、今日は俺たち三年は卒業する。

まだ、始まるまでは時間がある。
俺は外で一人佇んでいた。
満開に近い桜、時折風が吹き桜の花びらが儚く散っていく姿はどこか寂しく思えた。
そう、俺は理樹たちを失って半年ただそこで授業を聞いていた。
機械的に行動すると言ってもいいだろう。

朝起きて、食堂に行く。
そのまま教室に行って死んだように眠りにつく。
気づくと放課後まで寝ていたこともあった。
テストも中ぐらいで無難の出来だったと自負している。
そして、俺は普通に卒業する。

卒業して、俺は一浪することにした。
理由は特にはないが、働くって気分でもなかったし少しゆっくりしたいと思ったからだ。
「そうか。お前の選んだ道だ。誰も何も言わんよ」
先生はそれ以上理由を追及してこなかった。
俺としてもこれ以上関与して欲しくなかったし、あっちとしても関与したくなかったのだろうな。
しかし、先生の辛そうな顔は一生忘れないだろう。
あんな悲しそうな顔は忘れたくても忘れられないだろう。

『卒業生の皆さん。時間ですのですぐ教室に戻ってください』
くぐった放送が聞こえ、俺は教室へと歩き始める。

卒業式は暇なもんだよな。
ほとんど、立ったり座ったりの連続で正直飽きる。
卒業証書授与も渡して終わり。
味気のない式だよな。

「卒業生、送辞。代表棗恭介」
「はい」
マニュアルに沿った感じの声。
そして、その手には送辞の文が書かれた紙。
足をほぼ90度でくるっと回り向きを変える。
これもマニュアルどおりだ。
今の俺の行動はマニュアルに沿っている。
間違えると俺だけでなく、卒業生皆が恥をかくことになる。
だから俺は自分を殺しマニュアルどおりに動くロボットのように行動をする。

「卒業生、送辞」
その後は書かれたことだけを読み送辞が終わる。
席に戻り、座る。
次は在校生の答辞だったな。
しかし、理樹たちはいないため俺にはあまり関係がないというかまったく関係がない。

「在校生代表、二木佳奈多」
「はい」
なんとなく予想は出来ていたが、まさか来るとは思ってなかった。
俺もなんで俺が送辞を読むがかりになったのかまったく覚えてない。
「私たち、在校生一同は…」
答辞が始まる。
ほんとだったらリトルバスターズのメンバーに読んでもらいたかったぜ。
理樹なら、無難にやるだろうが、緊張した理樹の姿が目に浮かぶ。
真人と謙吾はないな。
鈴も選ばれたからにはやるだろうが、棒読みになりそうだ。
小毬と能美はのんびりした話し方だから答辞には向いていない。
来ヶ谷はまずやらないな。選ばれたとしてもつっぱねるのがオチだな。
西園は、元々大きな声出さないからな。選ばれないだろう。
三枝も教師側から見て選ばれないだろう。
「在校生代表、二木佳奈多」
それを言い終えた後、二木が一瞬こちらをみたような感じがした。
一瞬だったからこっちを見たかも定かじゃないがな。

そして、卒業式が終わる。
教師と別れの挨拶をするもの、友達と泣きあうもの、じゃれあって友情を深めているものそれぞれだ。
俺はと言うと……
まあ、一人で屋上にいる。
別に教師と話すこともないし、泣けるものでもないし、友情を深めるほど親しい奴はいない。
「こんなときにあいつらがいればなぁ…」
「あいつら?」
「理樹達のことだよ。あいつらがいたら真っ先に俺のところに来るだろうしな。『卒業おめでとう』ってな」
「そう、信頼されているのね」
「ああ、俺はリーダーだったからな」
ん? 俺は誰と話してるんだ?
ふと、隣を見る。
そこには、二木の姿があった。
「あら? どうかしましたか? 棗先輩」
「なんでここにいるんだ?」
「後をつけてきたからに決まってるでしょ? ここは立ち入り禁止ですよ?」
なんでい。説教しにきたのかよ。
「で、なんか用なのか?」
「別に、用なんてありませんよ」
「そうか」

…………
静寂が続く。
なんかおもっ苦しいな。
「ねぇ」
ふと、二木が話しかけてきた。
「なんだ」
「あなたは直枝理樹たちが死んでどう思ったの?」
嫌な質問をしてくる奴だ。
「悲しいさ。いつも遊んでいるやつらが皆死んじまったんだからな」
「そう。悪かったわね。そんなこと聞いて」
悲しげな表情を浮かべる二木。
「よく、吹っ切れるわね」
「そんなわけねーよ。今だって信じたくない。だけど、いつまでもそういって自分に嘘はつきたくない。だから俺は事実として受け取ってるだけだ」
「強いのね。棗先輩は」
その言葉は俺に重くのしかかる。
俺が強い? 俺はちっぽけな存在だぜ?
理樹には二回助けられちまってるしな。

一度目は鈴の精神を壊したとき、そんときの俺は昔の理樹みたいな状態だった。
それでも理樹は諦めず、真人、謙吾と仲間を増やしていって最後に俺に手を差し伸べてくれた。
あの温かい感触は今でも覚えている。
二度目は現実世界でのことだ。バスの乗員全員を鈴と二人で救出したときだ。
俺が一番重傷だったが、まあ今は無事だしな。そのへんは感謝しても足りないくらいだ。

それからだ。
理樹達が強くなり始めたのは。
二人が付き合い始めて、いつでも協力して困難に立ち向かっていく。
それがあいつらの強さだ。

それに対し俺に強さなんてない。
これはただのハッタリさ。

「俺は強くなんてない」
「偶然ですね。私もです」
俺たちは顔を見合す。
「俺たちは似たもの同士なのかもな」
「そうかも知れませんね」
二木が少し笑ったような感じがした。
それは一瞬のことですぐにもとの無愛想な顔に戻る。
「それでは、あまり屋上にいないように。それでは」
「あ、ああ」
踵を返し去っていく二木。

残った俺は手を空にかざし理樹達に一言こういった。
ありがとう、と。

そのあと、理樹達から卒業おめでとうと聞こえた感じがした。

俺は今日、この学校を去る。
理樹達のこと吹っ切れたわけではない。
今でも信じたくない。
だけど、これは事実でありもう覆せないことだ。
だから俺は今誓う。
あいつらの分まで俺が生きてやる。
理樹達の分まで俺が一人で遊んでやる。
苦しいときも、悲しいときもあるだろう。
だが、俺は挫けない。
そこで挫けたら理樹に助けられたことに意味がなくなっちまう。
だから、俺は誓う。
理樹達の分まで強く生きてやる。
理樹達の分までたくさん遊んでやる。
「だから、空から俺のことを見守っててくれよ」
空にかざした手を握り、俺はそう決めた。

『頑張って』
励ましの言葉を聞こえたような感じがした。
そして、俺は今日この学校を卒業した。

 

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