朝、いつものように起きて食堂へと向かう。
いつもと何かが違うような気がしながら……

とりあえずいつもの場所で朝飯を食っていると理樹が近くを通る。
しかし理樹は俺に気づかない様子で通り過ぎようとする。

「おいっ、理樹!」
「え? 恭介?」
きょろきょろと首を回して周りを見渡す理樹。
俺に気づいてないのだろうか。
と思っていたら、理樹が話し掛けてきた。
「あの、この辺に棗恭介っていませんでしたか?」
俺はすっ転んでしまった。
「ご、ごめん。大丈夫?」
「ああ、なんとか……。って俺が分からないのか?」
俺の言葉に少し不思議そうな顔をする理樹。
「女の子が俺って言うのはどうかと思うけど……。それに君みたいな子は見たことがないけど」
「俺は恭介だぞ。理樹」
「恭介って……。嘘もほどほどにしてよ? 僕だっていくらなんでも恭介の顔ぐらい分かるさ。君はどこをどうみても女の子にしか見えないけど」
理樹の言葉に言葉を失ってしまった。
ま、まさか……な。
嫌な予感がした。

そう思っていると来ヶ谷がやってきた。
「やあ、理樹君。誰と話しているんだ?」
「あ、来ヶ谷さん。この子誰か分かる? 僕の名前を知ってるみたいなんだけど、僕見覚えがなくて」
「ふむ……」
来ヶ谷がじっとこっちを見てくる。
な、なんか恥ずかしいな。
ポリポリと頬を掻く。
「いや。分からないな。名前はなんて言うんだ?」
「そ、その前に鏡を貸してくれない……じゃない貸してくれませんか?」
言葉に不思議そうに思いつつも来ヶ谷は手鏡を渡してくれる。
そして見て俺は気づいてしまった。
「な、なんじゃこりゃ〜〜〜〜っ!!」
気づいたらそう叫んでいた。

鏡の中には見事に俺ではない、誰かが映っている。
それは男ではなく、女だ。
にっこりと笑ってみる。
鏡の中の自分も動きに合わせて笑う。
「……」
絶句してしまった。
どうやら俺は女になっちまったらしいな。
その様子をずっと見ている二人は俺の行動を窺うように見ている。
俺の行動に問題があったらしい。
そりゃそうだろうな。
いきなり鏡を貸してと言って尚且つ鏡の前で笑うなどという行動は俺が見ても可笑しいと思う。
それに最初に大声が張り上げたからな。
周りの連中もこっちを見ているだろうな。

「そろそろ、いいかな?」
「あ、ああ。ありがとう」
「それで、大声で驚いていたようだが、どうかしたのか?」
「聞いてくれる……ますか?」
きっと二人に説明すれば協力してくれるはずだ。
「ああ、私たちでいいならな」
「え? 僕も?」
「当たり前だ。一番最初に話していたのは理樹君だろう?」
「そ、それはそうだけど…」
「それとも自信がないのかな?」
来ヶ谷の発言に理樹が力強く反論する。
「そ、そんなわけないじゃない!」
「じゃあ、一緒に聞くぞ」
「あ……」
やられたと理樹が額に手をつける。
理樹も諦めたように話を聞く体制になった。
さて、どこから話すかな?

朝、目が覚めたらこんな格好になっていたこと。
俺は棗恭介だということ。

まあ、なんとか納得してもらおうと話してみる。

「ほ、ほんとか? 恭介氏」
「ああ、朝起きたらこうなってたんだ」
理樹と来ヶ谷がマジマジと俺を見てくる。
「ふむ、たしかに恭介氏に見えなくもないが……」
「いまいち信じられないよね」
「俺もそう思いたいんだがな。全部事実だ」
うんうんと頷く。
「でも、なんか背も縮んでるよね。声も少し高くなってるし」
今の俺は今までの俺よりは背が縮んでいるが理樹と同じくらいだろうと思う。
同じ目線で話してるぐらいだしな。
「それよりも、だ。今の恭介氏が女だとしたら格好はどうするんだ?」
今は男子の制服を来ているため違和感がある。
長髪で女っぽい顔をしているのに男子の格好をしているからだろう。
ダボダボするのも分かる。
ずっとここまでそれで来た為、違和感を感じていたのはどうやらこれだったらしい。
「それも問題なんだよな。どうしたもんか」
少し考えていると、来ヶ谷の顔がにやりと微笑んだ気がした。
「なら、まずは皆に説明でもする?」
「それはだめだ。理樹君」
「なんでさ、来ヶ谷さん」
来ヶ谷は今楽しいことでも考えているのだろう。
くっくっと声を漏らし笑っている。
「説明をすると面白くないからだよ。理樹君」
やっぱり、な。
なんて思ってても俺も面白いとは思う。
「じゃあどうするの?」
「とりあえずは私の予備の制服を恭介氏に着てもらっていつものように過ごしてもらうんだよ」
「へー、それはいいかもな……ってマジかよっ!?」
「えらくマジだよ。私は冗談は言わない性質でな」
女の格好か……期待半分恥ずかしさ半分だな。
「じゃあ、理樹君。恭介氏のことはメンバーには秘密だぞ」
「わ、分かったよ」
理樹を一人食堂に置いて、俺と来ヶ谷は女子寮へと向かって歩く。


「恭介氏」
「なんだ?」
女子寮に向かっている途中来ヶ谷に色々と聞かれる。
ほんとに不思議なものとか食べてないかとか、行動はしてないかとかほんと色々聞かれた。
「恭介氏の胸はでかいな。おねーさんムラムラしてくるぞ」
「おいおい、マジかよ」
すっと手で胸を隠してしまう。
たしかに、来ヶ谷サイズはあると自分でも分かる気がする。
「とりあえずは、恭介氏は言葉遣いには気をつけてくれ。さすがに俺はだめだぞ」
「わ、分かってるさ」
私か、あたしか、どっちがいいんだろうな。
「あたいでもいいのかもな」
ぷっと来ヶ谷が吹き出す。
「おいおい、笑うなよ」
「いや、あたいやあたしよりは普通に私の方が違和感がないと思うぞ」
「そうか?」
「ああ、そのほうが絶対にいいぞ」
「分かった。そうするよ」

話している間に女子寮前につく。
こうして俺たち……もとい私たちは女子寮へ入る。

「これだ。さあ、着てくれたまえ。恭介氏」
「その、恭介って名前もまずいだろ。なんか名前を考えないとな」
「ふむ、それは一理あるな。そのまま介を子に変えて恭子氏君でいいんじゃないか?」
まあ、安直だがそれが無難だろうな。
「苗字はどうする」
「そうだなぁ……。そのときになったら自分で考えてくれないか? 私には思いつかない」
「わ、分かった」
視線を感じる。
「どうした? 恭子君」
「い、いや、見られると着替えれないんだが……」
「いいではないか。同じ女の子なんだ。着替えくらい見られても問題はあるまい。それともおねーさんに着替えさせて欲しいのか?」
「そ、そんなわけないだろうっ!」
顔が自然と赤くなる。
「じゃあ、私は後ろを向いている。それでいいだろう」
「ああ、それでいいや」
「では、下着はそこにあるものを使ってくれ。それと着替え終わったら呼んでくれ」
来ヶ谷はそう言って後ろを向く。
仕方なく今着ている俺の制服を脱ぐ。
たしかに今考えると袖や足のところとかダボダボしてるなぁ…などと考えながら脱いでいく。
肌が擦れ合う音だけが部屋に聞こえる。
制服を脱いで下着を見る。
「うっ……」
ぴたりと手の動きを止めてしまう。
やっぱり女の人の下着を見ると男としてはかなり恥ずかしいものがある。
「どうした? 恭介氏。下着のチョイスにでも問題があったか?」
「あ、いや。そういうわけじゃないがどうやって付けるか分かんなくてな」
「では、付けてあげようか?おねーさんが」
ほんとは嫌だが背に腹は括れないためお願いすることにした。

………
なんとか制服に着替えることが出来た。
来ヶ谷に妨害をされたが……。
「いや、たっぷりと堪能させてもらったよ」
艶々な顔で来ヶ谷は言っているが逆に俺はげそっとしていた。
「じゃあ、時間もあまりないんだ。食堂へと向かおうか恭介氏」
「あ、ああ。分かった」
「待ちたまえ」
「どうした?」
「髪形を変えるのを忘れていた」
「別にいいんじゃないか? これで」
これというのはそのまま下ろした感じだ。
「いや、今の恭介氏に似合う髪形があるはずだ」
「まぁ、まかせる」
「了解した」
櫛で丁寧に梳かしていく来ヶ谷。
5分も経たず終わった。
「どうかな?」
鏡を見るとそこにはポニーテール姿の俺が居た。
「って、鈴と同じ髪形か」
「ああ、とても似合ってるぞ。恭介氏」
うっとりとしている来ヶ谷。このままだと今にも襲い掛かってきそうだ。
「は、早く行こうぜ」
そう急かす俺に来ヶ谷も渋々同意してくれて俺たちは食堂へと向かっていく。

さて、これからどうなることやら……
 

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