食堂に着くとメンバーが集まって飯を食っていた。
俺と来ヶ谷もそれぞれお盆を持って近づく。

「あ、おはよ〜、ゆいちゃん」
「だから、唯ちゃんはやめろとどれだけいえば……」
呆れた様子で言う来ヶ谷とニコニコ顔で言う小毬。
少し微笑ましく思えた。
「それで、この人は? 見たことがない人ですが」
落ち着いた表情というかいつもの様子で西園が来ヶ谷に聞く。
ごもっともな質問だと思う。
隣に知らない奴がいると誰ですか? 聞きたくなるのは当然である。
「ああ、紹介が遅れたな。この子は私の親戚でな、今日から編入することになったんだ」
来ヶ谷はこちらをちらりと見てアイコンタクトをする。
ああ、自己紹介をしろってことか。
えっと、言葉遣いに気をつけてっと。
しかし、俺はいいことを思いついた。
いつも来ヶ谷にはからかわれているからな、そのお返しだ。
くっくっと皆に分からないように小さく笑う。
「えっと、唯ちゃんがいつもお世話になっています。初めまして、紅 恭子(くれない きょうこ)っていいます。皆さんよろしくお願いします」
「ぶはっ!」
言い終えた後、来ヶ谷が吹いた。
「どどど、どうしたの? ゆいちゃん」
「な、なんでもない。恭〜子〜君?」
じろりと睨みながらこちらへと詰め寄ってくる。
俺はそれにもろともせず、さらに追撃をする。
「なんですか? 唯ちゃん? 私たちは親戚もとい、親友なんだからこう呼んだっておかしくはないでしょ?」
俺は至極当然なことを言ったまでだが?
「ぐっ……。た、たしかにそうだが……」
来ヶ谷は小さく恥ずかしいぞと俺にしか聞こえない声で言ってくる。
「お二人は親友なのですねっ? 仲良しです〜」
「だね〜」
能美と小毬が俺たちを微笑ましそうに見ている。
「で、くるがや。馬鹿兄貴を知らないか? もう来てもいい時間なはずなんだが……」
鈴。俺をそんなにも心配してくれてるのか。
お兄ちゃん嬉しいぞ。
勝手な感想を頭に思っていると、
「ああ、恭介氏なら今日は風邪で休みらしい」
「風邪? あいつは馬鹿だから風邪なんてひかんだろう」
偏見な考え方だなぁ、おい。
お兄ちゃんを馬鹿呼ばわりするなんてひどいぞ。
「まあ、恭介君のことは置いといて」
置くなっ! むしろ俺の話題で盛り上がってくれよ!
なんか、最近俺の扱いが酷くなってる気がするんだが……。

「それで、こいつはなんだよ。メンバーにでも加える気か?」
真人が顔を上げて一言。
「ああ、そのつもりだ。もう恭介氏には了解を得ている」
「ほう、話が早いな」
「まあ、私としても恭子君がいきなり来るものだから驚いたがそのことを恭介氏に話したらああ、いいぜと快く了解をしてくれたよ」
捲し上げるように来ヶ谷は言う。
「んじゃ、よろしくな。俺は井ノ原真人だ。まあ好きなように呼んでくれ」
「じゃあ、馬鹿でいいぞ」
「ああ、それでいいや……って何か勝手に言ってんだよ鈴!」
「さきにどう呼んでもいいぞと言ったのはお前だ!」
横槍を入れた鈴と真人が睨み合いを始めだす。
こいつらはいつもそうだもんな。
少し笑えるな、こいつらのやり取り。
「あの二人はいつものことだ。ほおって置いていいぞ。それと俺は宮沢謙吾だ。よろしく頼む」
「よ、よろしく」
今はネジが外れているからな。
前よりはまだ話せるだろう。
「私は神北小毬だよ〜、よろしくね。きょうちゃん」
「能美クドリャフカです〜。仲良くやりましょう。恭子さん」
小毬と能美がフレンドリーに挨拶をしてくれる。
一応無難に挨拶だけしておく。
「私、三枝葉留佳。よろしく〜」
「西園美魚です。よろしくお願いします」
三枝が軽い感じで、西園が丁寧に自己紹介をする。
「初めましてだよね? 僕は直枝理樹。これからよろしくね。恭子さん」
「よろしく、理樹君」
少し理樹を困らせるような言い方をしてみる。
理樹は少し顔を赤くして、俺に言う。
「な、なんでそう言う言い方をするのさっ」
「楽しいからに決まってるじゃねーか」
俺と理樹がボソボソと話していたのが皆の目に入ったのか少し恥ずかしさを感じた。
「わふー、理樹と恭子さん。もう仲良しになってるですー」
「ずるいよー、理樹君ばっかり私だって恭ちゃんと仲良くしたいよー」
小毬と能美が羨ましそうにこちらを見ている。
なんか可愛いな。二人とも。
その表情を見られたのか来ヶ谷がにやりと口元をにやけさせる。
「ほほう、恭子君。あの二人が好みなのかな?」
「そ、そんなわけ……」
ないとも言えなかった。
「まあ、今の君は女の子。仲良くしていくのもいいだろう」
「ま、まあな」
淡々と話が進んでいく中で俺は一つ疑問になった。
「俺ってどこに住めばいいんだ?」
「それは、今分かるさ」
言ってる意味が分からない。
考えていると、急いできたのか息を切らせながら二木がこちらへと向かってくる。
「く、来ヶ谷さん。これはどういう意味ですか!」
携帯のメールの文面をこちらに見せる。
「『大変なことが起きた。今すぐ食堂へ来てくれ』」
今のは二木が言ったんだよな?来ヶ谷に聞こえたぞ。
「お姉ちゃん。姉御そっくりですヨ」
「びっくりです」
三枝と西園が素直に感心している。
「見てのとおりだ。彼女が来たから寮を少し空けてもらえないかと思ってな」
ずいっと来ヶ谷が俺を二木の前へと押し出す。
「ど、どうも」
「ふーん、あなた名前は?」
「紅恭子です」
「紅さんね。一応来ヶ谷さんの紹介となっているけどそれでいいのね」
「え、ええ」
なんか凄い気迫だな、思わず一歩後ずさる。
「来ヶ谷さん。条件は二つあります」
「ああ、なんでも構わないぞ。こちらが無理を言っているのだからな」
「まず一つ目は、彼女に寮のルールを教えること」
「ふむ」
「それと後一つ誰かがルームメイトになることです。一人だと不安になりがちですから」
「了解した。それは今から決めても構わないかな?」
「ええ、どうぞ。それでは後で鍵を渡しに行きますので」
「ああ、すまないな」
「いえ、それでは」
二木が踵を返し、食堂を去っていく。

「皆、話は聞いたとおりだ。いまから恭子君のルームメイトを決めたいと思う」

このあと、ルームメイトを決めるのを巡って戦いが始まることをまだ俺は知らない。

 

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