「で、こうしたわけだが」
「その訳が私には理解出来ないのだが……」
来ヶ谷はそういい、軽くため息をつく。
「別にいいじゃねーか。俺も正体を知ってる奴のほうが気が楽ってもんだ」
「まあ、それは分からなくもないが」

結局、俺は来ヶ谷を選んだ。
最初は誰を選ぶかはっきりとは決めていなかった。
しかし、考えてみたら小毬たちみたいに正体を知らないやつといたらいつかはボロを出すだろう。
それで、ばれて険悪な空気にはしたくないと思い、俺は来ヶ谷を選んだわけだが。
当の本人は不満らしい。

「それは、そうだろう。せっかくの一人部屋なのに水を差される感じでなんか嫌な感じだ」
「それじゃ来ヶ谷は俺の正体がばれてもいいっていうのかよ」
「そういっているわけではない。ただ」
来ヶ谷は口を濁らす。
「面白くないだけだ」
そう呟いた。


時間は少し遡る。
「じゃあ、やっぱりここはなれてないから唯ちゃんかな?」
考えていたらこう言葉に出していた。
「ふむ、最初に選択肢にはないと言った筈だが?」
「えー、だめなの?」
女は愛嬌だと誰かが行っていた気がした。
だから俺は泣き脅し作戦に出た。
「だって、慣れてないのに、唯ちゃんは他の人と一緒になれっていうの?」
「う……そういうわけではないのだが」
結構効いているらしい。
それに他の面々からもフォローが来る。
「ゆいちゃん。だめだよ〜? きょうちゃんと仲良くしてあげないと」
「だからゆいちゃんと呼ぶなと何度言えば気が済むんだ」
少しずつ来ヶ谷の調子が狂う。
「来ヶ谷さんは恭子さんと一緒は嫌なのですか?」
「そういうわけではないが……」
ちらりとこちらを見てくる。
外見は女だが、中身が男だ。
そんな奴と関わりは持ちたくないだろう。
……俺だってなりたくてなったわけじゃないやいっ!

「じゃあ、いいじゃないですカ。結構二人並ぶと姉妹って感じしますヨ?」
「ほう、それは喧嘩を売っているのかね。葉留佳君」
「えー! なんでそうなるのかわけ分かんないですヨ!?」
「葉留佳、落ち着きなさい」
驚いている三枝に二木が宥めに入る。
「来ヶ谷×紅。……良いかもしれません」
ゾクッ
一瞬だが背筋に寒気が走る。
なんだこの感じ。
とても嫌な予感がする。
「こらこら、美魚君。勝手にそっちに持っていくんじゃない」
「あ、すみません。お二人を見ていたらつい」
ついって何だよっ!
てか俺と来ヶ谷はそんな関係じゃねぇーー!!

「私は用事はあるので」
「では、わたくしも失礼させてもらいますわ」
二木と笹瀬川は食堂を出て行ってしまった。

「で、どうするんだよ。来ヶ谷の姉御」
「ん、どうすると言われてもだな」
少し困った様子になる。
俺と一緒はそんな嫌なのか?
不意にそんな言葉が頭に走る。
だとしたら俺はかなり迷惑なことを口走ったのかも知れない。

「じゃあ、私一人でいいや」
俺はそう渇いた笑みで答える。
来ヶ谷が答えを出さないということは俺のことを嫌っているのかもしれない。
だったら取る方法は一つしかない。
俺が一人、女子寮で奮闘するしかない、と。

俺の言葉に皆は驚きの表情しか出ていない。
「だ、だめだよ〜。慣れてないなら誰かと一緒にいたほうが楽しいよ〜」
励ますように小毬がいい、
「小毬さんの言うとおりですー。誰かと一緒にいたほうが相談も出来ます」
能美が小毬の言葉に便乗し、
「お、クド公にしてはいいことをいいますな。一人ってほど寂しいのはないからね」
三枝が少し寂しそうな表情でこちらを見て、
「居場所がないというのは辛いものですよ?」
西園が自分に言い聞かせるようにこちらに問う。
「こいつらといると毎日が楽しいんだっ!」
ちりんと笑いながら言う鈴。

「恭子さんもさ、一緒に馬鹿やろうよ」
「おう、楽しいぜ」
「分からないことがあったら俺たちが教えてやる」
理樹、真人、謙吾……。

「君が思っているほど、彼らは弱くない」
来ヶ谷がこちらを凝視する。

そっか、そうだよな。
俺が始めたリトルバスターズなのに、俺がくじけてどうするんだ。
だったら俺もほんとのことを言おう。
そうすれば絶対にこいつらは力になってくれるはずだ。

「実は俺……」

 

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