「これなんてどうかな?」
「いやいや、こっちのほうがいいデスヨ」
「これも似合うと思うのですーっ」
「これも捨てがたいと思うんだが…」
小毬たちに連れられて来たのは来ヶ谷の部屋。

俺の目の前には何やら女性陣が談話している。
その手には、ヘアバンドやらリボンやら飾りの話をしているらしいが…
まさか、それ俺に付ける気か?
などと思っていると西園が皆に向かって言った。

「全部試してみてはどうでしょう?」
「「「「それだ!!」」」」
見事に小毬、三枝、能美、来ヶ谷の声がハモった。

「ふふふーん。ふんふふふーん♪」
小毬が鼻歌をしながら俺に、正確には俺の髪に何かをくくりつけている。
櫛で軽く梳かしてくるんと髪を整える。
さすがに手馴れているといった感じだろうか。
「じゃーん。完成です」
自信ありげに小毬は皆に言う。

「おおー!」
皆が賞賛している。
「はい、恭介さんもどうぞ」
手鏡を渡され、自分の姿を確認してみる。
「うおっ…! こ、こいつは……」
まさに見事と言うべきだな。
真っ直ぐ伸ばしているかと思いきや、後頭部らへんにフリフリの白いリボンが付けられている。
それと顔が合っているのか少し薄幸な少女のような感じを出している。

「じゃあ、次は私がいっくよーー!!」
三枝が元気よく準備に取り掛かる。
へぇ、三枝も小毬と同じようにテキパキとした動きで髪をなんかしている。
「じゃーん! こんなもんでどうヨ?」
「…………」
誰の反応もなかった。
「なんか、ささみみたいだ」
「さささーさんに似てます」
「むしろ、髪型だけで考えるとそのまんまだな」

すっと無言で鏡を渡された。
確認しろってことか。
どれどれ…?
たしかに笹瀬川にそっくりだ。
髪型だけ。
ものの見事なツインテール姿の俺がいた。
「なんか恭介さんには似合わない気がします」
西園の止めが三枝の胸に突き刺さる。
「ひどいなー。これでも考えたんだよ?」
「でも、あんまり工夫点はないですねー」
能美の追加攻撃を食らう。
「次いくか」
さらっと流された。
「ひどっ! 扱いひどいっすよ。姉御〜」
「あまり気にしないことだ。葉留佳君」
来ヶ谷が三枝の頭を撫でる。
「味方は姉御だけですヨ〜」
よよよと泣くまねをする。
「味方になったつもりはないがな」
あっさりと捨てられた。
「ひどっ!」
その内三枝の顔に笑顔が消えて座り込むようにしてすすり泣き始めた。

誰一人として向こうを気にしないというのも問題だと思うんだが……。
気にしたほうがいいのだろうか。
「あー、恭介氏は気にしなくていい。葉留佳くんならその内元に戻るさ」
来ヶ谷はああ言うがなんというか俺としては負に落ちない部分があるわけだが……。
今は髪を弄られているため動くに動けない。
しかも下手に動くと何をやらされるか。
そう思うと動けない。

「はいっ、完成ですー」
わふっと息を付いて皆に完成したのを見せる。
「お、おお?」
「……ぽ」
「ふむ、なかなかな出来栄えだ」
「お似合いですよ〜」
皆から賞賛の言葉が上がる。
その後能美から何かを手渡された。
「ん? メガネ?」
「はいです。それを付けてみて下さい」
「あ、ああ」
能美に促されるまま俺はメガネを付ける。
「おお! あれだ。漫画とかで良くある委員長みたいだ」
「やはりメガネキャラは一人欲しいですね」
「まったくだな。美魚君の言うとおりだ」
あー、まったく話が見えてこないんだが…。
「どうぞですー」
鏡を渡されて見て皆が唸る理由が分かった。
そこにはメガネをかけてみつ編みをしている俺の姿。
鈴が言うのはきっと漫画かアニメの影響だろう。
最近理樹と深夜アニメ見てるらしいしな。
これは、兄として喜んでいいものなのか?
と最近悩んでいるんだが……。

「まあ、細かいことは気にしないほうがいいだろう」
俺の心を読んだのかどうかは知らないが来ヶ谷が俺の思ったことを口に出していた。
「どういうことだ?」
「恭介氏は鈴君を過保護し過ぎだ。だからこの辺でシスコンを卒業するべきだと思う」
俺は気づかないうちに鈴を甘やかしていたということだろうか。
来ヶ谷の言葉に少し疑問が残る。
「今は頭に少しだけ残しておいてくれればいいさ」
そういって来ヶ谷は俺の髪をセッティングしている。
「……そうするよ」
その言葉を頭の片隅に残し出来上がるのを待つ。
時間にして2、3分だろうか来ヶ谷の手が止まった。

「うむ、完成だ」
満足げに腕を組んでいる。

俺は皆のほうを見ている。
「ほぁぁぁ……」
「ほほぉ、これはこれは」
小毬といつの間にか復活した三枝がすごいものを見たかのような表情をしている。

「わふっ、お似合いです! 恭介さん!」
「ん、馬鹿兄貴にしてはまあ、合格だ」
能美は力強く拳を高くかざしながら力説し、鈴はそっぽを向きながらも素直な感想を言っている。

「どうだ。おねえさんの自信作だ」
「さすが、来ヶ谷さんですね」
来ヶ谷の言葉に西園は賞賛している。
…俺はどんな髪型をしているんだろうか。

「恭介氏も見てみるといい」
鏡を渡されてゆっくりと自分を見ていることにした。
「!? こ、こいつはっ……」
自分の姿を見て驚いてしまった。
そこには見事にフリフリのレースのついているヘアバンドらしきもの。
こいつはまさに……

「うむ、メイドだ」
「……ってなんでメイドなんだよっ!?」
思わず理樹もびっくりするぐらい早くツッコミを入れる。
「後は、服装だな」
来ヶ谷は聞く耳を持たず、クローゼットの中を探り出す。

「姉御も珍しいもの持ってますねー」
「メイドさんですっ!」
二人は興味津々に来ヶ谷と一緒に中を覗いている。
やられた自分にとっては酷く迷惑な話あるわけだが……。

「ふふふ、最高です。最高です」
西園は何かにとりつかれたかのようにデジカメで写真を撮っている。
てか、ほんとに似合っているのか?
自分としてはかなり微妙なんだが……。

「うむ、似合っている。安心したまえ。恭介氏」
不意に後ろから声をかけられびくっと体が反応をする。
来ヶ谷の手にはメイド一式がある。
真人がこれを見たら興奮することは間違いないだろう。
「さて、着替えてもらおうか」
「はい!? な、なんでだよ!」
思わず手を前に持っていって体を隠すポーズを取る。
「頭にそれを付けている時点でこれに着替えるのは運命なのだよ。恭介氏」
「いやいや、言ってる意味わかんねぇし」

「ここまで着たら潔く着替えちまいましょうよ」
「そうなのですっ。着替えるのが一番です!」
「着替えちゃいなよ。ゆー」
「往生際が悪いですよ? 恭介さん」
「さっさと着替えろ。馬鹿兄貴」
ジリジリとこちらに歩み寄ってくる。
「お、おいおい冗談だろ?」

皆の顔がニヤリと笑った。
「そんなの」
「冗談じゃないに」
「決まってるじゃないですか〜」
ですよねー。
「あーーーーーーっ!!」
俺の声が女子寮に響き渡る。
それくらい大きかったと思う。

…理樹、俺だめかも知んない。

 

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