今日は12月24日、クリスマスの日だ。
イエス・キリストとかまあよく分からない人の生誕した日らしい。
ぶっちゃけ、皆そういう抜きで楽しんでいると思う。
これを本人が見たらどう思うのだろうか。
少し気になった。

まあ、前置きはどうでもいいとして今日はクリスマスだ。
天気は良好、出かけ日和だと思う。
誰かを誘おうか?
と思ったけど一人で出かけたい気分だったため一人外に出る準備をする。

部屋の中には暑苦しそうに筋トレばかりしている真人の姿。
正直暑苦しい。
真人の息遣いすら不愉快な気分になる。
「ん? どっか行くのか?」
「ちょっと外の空気吸ってくるよ」
真人といるとだんだんこっちが変な気分になりそうだからね。
「気をつけてな」
「うん、ありがと」
真人に見送られて部屋を出る。

と言ったものの行く当てはなく、町に出ることにした。
「はぁ……」
息を吐き出す。
白い息が空に上がって消えていく。
ふと思う。
この白い息はなんで出るんだろうなぁ……。
たしか授業で聞いてような気がしたんだけど…。
聞いてる最中にナルコレプシーに襲われて寝てたっけ。

まあいいや。
とりあえず歩を進める。
「なんか寂しいな」
そうか、音がないからだ。
そう思い携帯の着メロでジングルベル(オルゴール版)を流す。
携帯は上着の胸のポケットに入れて歌詞を口ずさみながら歩く。
なんだか気分が高ぶってきた。

そうこうしているうちに目的地に到着する。
携帯の音楽を切ってズボンのポケットにしまう。
ポケットに手を突っ込みながら歩いていく。


「お願いしまーす」
聞きなれた声が少し先で聞こえる。
声の聞こえたほうへ向かって歩く。
そこにはサンタの格好をした小毬さんの姿があった。
赤と白のコントラストが良く映えて、簡単に言うと良く似合っていた。
小毬さんもこちらに気づいたのか笑顔で手を振ってくれた。
「小毬さん。何してるの?」
「んー? ボランティアですよ〜」
笑顔でそう答える。
こんなボランティアあるんだろうか。
疑問に思いながらも小毬さんの後ろにある白い箱が目に入る。
「これは?」
「ケーキなのです」
「はい?」
小毬さんの説明によると、町のお兄さんに手伝って欲しいことがあるとか言われて手伝っているらしい。
これってバイトじゃ……。
「まあ、細かいことは気にすんな」
白い箱のさらに後ろから一人の人影が現れる。

「あの人は?」
「ボランティアをして欲しいと言われた困ったさんです」
町のお兄さんがおいおいと苦笑いしている。
「まあ、譲ちゃんが手伝ってくれて助かってるよ。売り上げ上がってるしな」
そういってお兄さんは加えていたタバコを離しふーっと煙を出す。
あ、ワッカ作るのうまいなぁ…。
などと感心しながら小毬さんの格好をもう一回見る。

スカートが短く太ももが丸見えだ。
やっぱり小毬さんにぴったりな格好だと思う。
でも、待ち行く男性がチラチラと見てるあたり独り占め出来ないのが少し悔しい。
ふと、お兄さんと視線が合いグッジョブと右手をやっていた。

「で、どうだい? お前もやるか?」
「はい!?」
我ながら素っ頓狂な声を上げてしまう。
思ったよりも大きな声だったので町の人は少し睨みながら通り過ぎていく。
「そんな驚くことじゃねーだろ? いい顔立ちしてるしな」
「は、はぁ……」
それは褒めているのだろうか。
「理樹君もやっちゃいなよ、ゆー」
小毬さんのその格好、言葉にうんと頷いた自分がいた。

 

「………」
「ほ、ほぉ。こ、これは……」
「似合ってますよ。理樹君」
二人がマジマジと見てくる。
うぅ、恥ずかしい。
「なんで、ズボンじゃなくてこっちなんだぁーーーー!!」
そう、僕の格好は見事に小毬さんの着ている服と同じ物だった。
「あー、いやすまん。それしかなくてな」
あっはっはと笑い飛ばすお兄さん。
「うん。見事に女の子に見えますよ〜」
それって男として複雑なんですけど……。

「まあ、適当に売ってくれればいいからよ」
と言ってお兄さんはどこかへ消えていった。
ほんとに適当だなぁ……。
「じゃあ、がんばろ。理樹君」
「あ、うん」
小毬さんに促されてとりあえず売ることに専念することにした。

売っている最中に思ったけど、なんか視線が痛いなぁ……。
痛いというよりは舐めまわすかのような視線だ。
ゾクっと背筋に悪寒が走る。
ああ、引き受けるんじゃなかったと今更ながら後悔している。


だんだんと日が沈みかけてきたときだった。
「おーし、上がっていいぜ」
お兄さんがどこからか出てきた。
「あ、はい」
僕と小毬さんは着替えてまたお兄さんのもとに戻ってくる。
「売り上げは上々だ。ありがとよ」
ほれっと二つ封筒を手渡してくる。
「まあ、なんだ。売り上げに貢献してくれたからな。その駄賃だ」
中をみると諭吉が三枚入っていた。
「こんなにもいいんですか!?」
「ああ、いいものも取らせてもらったしな」
ま、まさか……。
「おう、これはいい写真だぜ」
見せられたのは恥ずかしそうに売り子をしている僕の写真だった。
いつ取ったんだろう。
「後は、これはあまりもんだが貰ってくれや」
白い箱、もといケーキを押し付けられる。
「いいんですか?」
「ああ、どうせ捨てるんだ。だったら誰かの腹に入ったほうが幸せってもんだろ?」
「そうですね〜。それで誰かが幸せになれるなら私も幸せ。これが幸せスパイラル」
小毬さんの幸せスパイラル論だ。
「そうだな。その言葉は気に入った。もう一つおまけだ」
ケーキの箱をさらに二つ渡される。
なんだか悪い気がするが……。
「いいんだよ。俺の気持ちだ受け取ってくれ」
なんだかその言葉に暖かさを感じた。
「あ、ありがとうございます!」
「おう!」
いいことをすると幸せが巡ってくるんだなぁと思った。

「あれ?」
小毬さんが空を見ている。
僕も空を見てみる。
そこには白くて丸いものが降っていた。
「ほぉ、珍しい。雪か」
「ホワイトクリスマスでさらにハッピーですよ」
ニコニコと小毬さんが言うから僕もニコニコ顔になる。
「そうだね」

まあ、こんな日も悪くないか。

 


「ただいま」
部屋に戻って真人に言う。
「おう、理樹に……小毬か。なんだよ、それ」
白い箱を指差して言う真人。
「これ? ケーキだよ。皆で食べようかと思って」
「なら、連絡しますよ〜」
小毬さんが携帯で通話をしようとしたら、
「その必要はない」
「うわ!?」
後ろから恭介が現れた。
「い、いきなりびっくりさせないでよ」
「悪い悪い。で、ケーキだよな。皆には連絡済みだ。食堂に行くぞ」
さすが恭介。連絡早いな。


食堂に着くとそこにはメンバー以外に二木さんと笹瀬川さんがいた。
二木さんは葉留佳さんに誘われたかららしい。
笹瀬川さんは小毬さんが誘ったらしい。
いつの間に誘ったんだろう。
そんなことを思いながら三つのケーキの箱を机に置く。

「ケーキ食べるの久しぶりだなー」
「そうね。久しぶりに二人で一緒に食べましょ」
姉妹で仲良く笑いあっている。
ほんとに仲直りして良かったね。

「宮沢様! い、い、一緒にケーキでもいかがですか?」
「ああ! いいぞ」
ノリがいい謙吾に笹瀬川さんはプシューと真っ赤になって気を失っていた。

「井ノ原さん。口にクリームがついてますっ」
「ん? ああ、こんなもん問題ねぇ。拭けばいいさ」
ゴシゴシと袖で口を擦る。
クドはあぅーっと目に見えたかのように落ち込んでいた。
真人そこは空気を読もうよ。

「やっぱイチゴのショートだよな」
「やはりビターチョコレートだろう」
「いえ、二つも捨てがたいですがやはりモンブランかと思います」
恭介と来ヶ谷さんと西園さんでどのケーキが好きか言い合っているらしい。
でも、恭介がノーマル好きだとは思わなかったなぁ。
てっきりチョコが好きかと思ってたけど。

「鈴ちゃん。あーん」
「あ、あーん」
赤い顔をしながら小毬さんのケーキを頬張る。
「うん。おいしい」
「それは良かったですよ〜」
「じゃ、じゃあ次はあたしの番だ。……あ、あーん」
前の鈴ならこういう行動すら出来なかったと思うのにやっぱり強くなるって凄いよね。
「あーん」
小毬さんも嬉しそうに鈴のケーキを頬張っている。

僕は僕で皆の様子を見ながらちびちびとケーキを食べていた。
皆が楽しそうで良かった。

そう、こんなたくさんの友達に囲まれて馬鹿出来るのは今このときだけだ。
だからこそ、今を精一杯楽しむんだ。


最後はこの言葉締めようかな?
僕は皆に向かってこう言った。
「皆、メリークリスマス!」

「メリークリスマス!」
各々が楽しそうな表情、嬉しそうな表情、恥ずかしそうな表情しながら言ったこの言葉は一生忘れないだろう。

 

こんな楽しい一日だった。
 

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