「……その、恭介氏。もうちょっとそちらに行ってもらえるか? こちらが狭いのだが……」
「これ以上はいけないんだが……」
「そうか…」
来ヶ谷は普段からは想像出来ないほどに顔を真っ赤に染めていた。

こんな状況になったのは昼休みのことだった。

 


それは、ふとしたきっかけだった。
いつものように俺たちリトルバスターズは遊んでいた。
……たしかそんときはかくれんぼだったな。
かくれんぼの途中に俺は鬼に見つかりそうになった。
どこか隠れる場所はないものかと探していたところ、ある教室のロッカーが目に入った。
「よしっあそこなら……」
いい場所だと思い、そこまで素早く走っていく。
勢い良く開けて勢い良く閉めた。
「ふぅ、やれやれだ」
俺は汗を腕で拭こうと思い、左腕を上にあげる。
「あっ……」
女の声がした。
声のほうを向くとそこには来ヶ谷の姿があった。
「ん? 来ヶ谷? なんでここにいるんだ?」
それはこっちの台詞だと言わんばかりに睨まれた。
「それはこちらの台詞だ。ここに隠れていたところにいきなり恭介氏が入ってきたのだからな」
声質も少し低くどうもご立腹の様子だった。
「それはすまん。謝っておくよ」
「……まあそこまで気にしていたわけではないからな。別に構わんよ」

そこまで話していて俺はふと気づいてしまった。
「狭いな……」
「ああ、たしかに狭いな」
そう、普通ロッカーというものは物をしまう場所であって人は入らない。
入るとしたらせいぜい一人だろう。
それを男と女が入るとしたら必ずどこか一箇所は体が触れる場所が出てくる。
俺は腕に柔らかい感触を今感じている。
「ん? 恭介氏。顔がにやけているぞ。もしや私の胸が触れているからエロい想像でもしているんではないだろうな」
ジロリと睨まれる。
「そ、そんなわけがないだろう」
動揺していたのか声が裏返る。
「そうか……。そんなにも興奮をしていたか」
「ご、誤解だって! 俺を信じてくれっ」
慌てて誤解を解こうとするが中々信じてくれない。

「まあ、いいさ。興奮をするということは健全な男の証拠だからな」
来ヶ谷は笑って言う。
「しかし、一向にこのロッカー開かないな」

そう、これが冒頭に始まったことである。
俺たちはロッカーに入って閉じ込められていた。
故意があるわけではなく、たまたまと言う感じで閉じ込められてしまった。
しかし、もう昼休みが終わっている時間だった。
一時間ぐらい経っているだろうか。
そろそろ、この中が暑くなってきたところだ。
汗がじわりと滲んでくる。
「暑いな」
「たしかにこの中は暑いな」
来ヶ谷も額に汗が滲んでおり暑そうだった。
今も汗が出てきているので正直言って上着を脱ぎたいぐらいだ。
しかし、腕はほとんど動かせないし、今も来ヶ谷と向き合っている状態なのだから。

「なあ、来ヶ谷はどうしてリトルバスターズに入ったんだ? 俺がいっちゃあなんだが変な連中ばかりだろ? それをどうして……」
全てを言い終える前に来ヶ谷は口を開けてこう言った。
「面白そうだったというのが一番の理由だが、もう一つある」
「なんだよそれ?」
「……気になる人がいるからだ」
少し顔が赤くなっていた。
「へぇ、そいつのことが好きなのか?」
「分からないんだが、その人のことが気になっているんだ」
答えになっていない。
「……でもたしかにそれは好きなのかもしれないな」
「そうか……」
ここで会話が途切れる。

微妙に気まずい雰囲気がロッカー内を漂っている。
「なあ、もしでいいんだがその気になる人っていうのを教えてくれないか」
「なっ、なな」
来ヶ谷は顔をリンゴのように真っ赤に染める。
「いうのが嫌だったら別にいいんだが……」
「……分かった。教えよう」
変に隠しても無駄だと思ったのか意を決して話し出す。
「……恭介氏だ」
意外な答えが返ってきた。
俺の予想は理樹だと思ったんだが。
「俺か? なんでだよ」
「恭介氏には行動力があるし、それに皆がついて行ってわいわいと騒いでいるというのを最初は見ているだけだった。しかし、恭介氏はそれに感づいたのか私にリトルバスターズの一員にならないかと誘ってきた。私は嬉しかったんだ。こんな私でも仲間に入れてくれる恭介氏のことを、そして皆のことを……」
「………」
俺は黙って話を聞いていた。
「そして、私は無意識のうちに恭介氏を見るようになっていた。いつしかあなたのことを好きになっていた」
「それってもしかして……」
「ああ、そのとおりだと思う。恭介氏、好きだ私と付き合ってくれないか?」
突然の告白で俺は驚いていた。
まさか来ヶ谷に告白されるとは思っていなかったからだ。
でも、俺は気づいていた。
来ヶ谷が俺の方を見るようになっていたのも。
そして、俺もいつしか来ヶ谷に惚れていたことも。
なら、答えは決まっていた。
もちろん、
「俺でいいならな」
「ああ、恭介氏だからこそいいんではないか」

そして、俺たちはロッカーの中で口付けを交わした。
「……二人ともなにしてるの?」
いきなりロッカーの扉が開かれてそこには理樹の姿があった。
「「あっ……」」
時既に遅し。
理樹に俺たちのキスシーンが見られてしまった。
「ご、ごめんっ。ごゆっくり!」
ダッとどこかへ走っていってしまった。

「ふふっ、少年に見られるとはな」
「ああ、そうだな」
「まあいずれは分かってしまうことだ。それが早いか遅いかというだけだ」
来ヶ谷は冷静にそう言う。
「では、少年がごゆっくりと言ったんだ。それを無駄にしてはいけないな」
「……そうだな」
そして俺たちは二回目のキスを交わした。

「くる・・・、いや唯湖」
「な、なんだ? 恭介」
「好きだぜ」
俺は小さくそう呟いた。

「私も大好きだぞ」
唯湖は笑顔でそういった。


まぁ、皆に冷やかされたのは言うまでもない。
 

inserted by FC2 system