「いやほぉおおおおおおい!!」
「マーーーーーーーーーン!!」
「こいつはすごい筋肉だぁああああああ!!」
僕の目の前で三人の男が意味の分からない言葉を発しながら叫んでいた。
正直言って、むさ苦しい。
いや、正直に言わなくてもむさ苦しいんだけどね。
そして、僕の目の前には一つのゲームが置いてある。
コマを進め、止まったマスの書いてあることを実行しないといけないと言う人生ゲームの完全パクリとも言える恭介自作のボードゲームだ。
「で、今は三人がそれを実行中とわけ」
誰かに語りかけるわけでもなく、僕はポツリと言った。
それは夏休みに入ってすぐのことだった。
「よし、お前ら。今日は全力で遊ぶゲームをするぞ」
そんなことを言って恭介は折りたたんでいた紙を取り出し僕たちの前に出す。
四つ折りにしてはずいぶんと大きいなぁ、とか思いながら広がるのを待つ。
広がったときには30cmくらいはあった。
「これ、何?」
「ん? 今日はこいつで遊ぶぞ」
僕の質問無視ですか……、まあいいけど。
恭介はそのまま言葉を続けた。
「これは、いわゆる人生ゲームの進化系。全力ゲームだ」
……またしょうもないものを作ったんだなぁ。
思わず、ため息が出てしまった。
そんなものを作る暇があるなら就職活動をしないと危ないだろうに。
まあ恭介自身のことだからそこまで深く考えないようにする。
「で、これはどうやって遊ぶんだ?」
「そもそもコマとかねーじゃん」
謙吾と真人が至極当然なことを聞く。
たしかに、恭介が用意したのはボードゲームのボードという基盤だけである。
コマとかは用意されていない。
恭介はくっくっと怪しい笑いをしながら、ある場所へ指を指す。
「人生ゲームのコマやルーレットを使えばいい」
それは盲点だった。
二人も一緒の様子で問題はなにもない。
そして、人生ゲームならぬ、全力ゲームの幕が今切って落とされたのであった。
話は冒頭へと戻る。
恭介の字はうまいので、マスに書いてあること自体は読めるので問題はない。
しかし、書かれていることが問題だった。
『好きな人を大声で叫ぶ。フルネームな』
「…………えっ!?」
思わず声を張り上げてしまった。
「どうした、理樹。おっ! いいやつを引いたな」
「ほう。中々気になる内容だな」
「へっ、俺だよな。理樹」
三人はニヤニヤしながら僕のほうを見てくる。
くっ、いやなマスに止まったもんだ。
「誰なんだ? 鈴か? 小毬か? 三枝か? 能美か? 来ヶ谷か? 西園か? 笹瀬川か? 二木か?」
恭介がリトルバスターズの女子メンバーの名前を次々と言っていく。
「僕は……僕が好きなのは……」
どうしても言いたくはない、けど言わないと先には進めない。
逃げ道が見つからない、と考えていたら一つの逃げ道を発見した。
言葉を紡ぐのに考えた秒数その間二秒。
数万回とそれは考えたことがあったため淀みはなかった……と思う。
頭の中で自問自答した答えの結果は、
「僕は皆が好きだぁーーーーーー!!」
これだった。
自分でも無難な答えだと思っている。
しかし、三人は呆れながらも、まぁいいかと言って先に進めていく。
よし、なんとかなったな。
進み具合はなんとも微妙と言えた。
恭介は自分で作って自分の首を絞めるようなところばかりに止まる。
例を挙げると、
『女装する。服なら理樹の部屋に4着皆の分を用意しておいた。サイズは合うはずだ』
多分僕に着せたかったんだろうけど、残念ながらそのマスは通り過ぎていた。
「うおおおおおおおお!!」
恭介は頭を抱え、大声を出し部屋を転がる。
少し時間が経ち、着替えてくると言ってどこかへ消えていった。
5分くらいが経ち、女子の制服を着た恭介が戻ってきた。
「あはは……」
皆の顔は引きつっていたと思う。
それほどまでに微妙だったと言える。
いや、似合わないってわけじゃないけど、さすがにその身長でないなぁと思っただけだよ。
「次やるぞ!」
半分ヤケになった恭介がルーレットを回す。
数は7、その分だけ進んでマスを見る。
『自分の大事なものを一つ誰かに譲渡する』
「うおおおおおおおお!!」
二回目の叫び。
もはや運がないとしか言いようがないだろう。
「ちっ、後でスクレボを持ってくる」
大事なものなんだ、それ。
恭介にとっては大事なんだろうな、スクレボ。
「ぬっ」
謙吾が短く困ったような声を出す。
『誰かのモノマネをする。ちなみに女子メンバー限定な』
「むぅ……。誰にするか」
謙吾が腕を組み、悩んでいる。
「よ〜し、今日も一日頑張るよ〜」
………ちょっ!
「すげぇぜ謙吾。そっくりだった」
「やべぇ、お前が小毬に見えちまったぜ」
そう、すごく似ていた。むしろ気持ち悪いほどに。
「ふっ、そう言ってもらえるとやった甲斐があったというものだ」
満足そうに真人にルーレットを渡す。
「お、こいつは俺向きだな」
『腕立て、腹筋を100回やる』
真人向けだなぁ……。
「その辺はちゃんと考慮したんだよ」
女子の制服を着た恭介が説明を付け足す。
「ふっ、ふっ、ふっ……」
真人が筋トレを始めたので僕もルーレットを回す。
「うわああああああ!!」
最悪なマスに止まってしまった。
「よっしゃーーーーーあ!」
逆に恭介は歓喜していた。
『園児服を着て、恭介に向ってお兄ちゃんと言う。ちなみに格好はそのままな』
さ、最悪だよぉー……。
しかし、やらないといけない為腹を括る。
「ほら、理樹。これだ」
と渡され着替えに行く。
「……あれ? 上着っぽいのしかないや」
下はないのかにしても短い。
黄緑の上着だけ着てみると、膝上ぐらいでなんとも微妙な長さである。
多分、鈴たちのスカート丈ぐらいだろうと思われる。
着替え終わったので出ていくことにする。
「やべぇ、萌えそうだ」
恭介の顔がにやけ過ぎてふにゃけていた。
「……お、お兄ちゃん」
「うほほーーーーーいい!!」
僕の言葉の後に、恭介はスケート選手でも難しいトリプルアクセルっぽく回りながら喜んでいた。
その後も、無茶ぶりとも言える全力ゲームは続いた。
「よ、よし。やっとゴールだ」
「そう、だな。ようやくだ」
「ああ、これで終わるんだな」
「じゃあ、回すよ」
僕はルーレットを回す1以外が出ればゴール。
1が出れば皆がひどい目にあう。
『皆で女装し、女子メンバーの誰かに写真を撮ってもらう』
が、1の内容である。
なんで、こんなものを思いつくかなぁ?
恭介は言った。
「最後のほうは寝ぼけながら書いてたからな。仕方ねぇよ」
仕方なくあるか、そのために僕らが最悪な目に合うというのに……。
クルクルと回り、やがて勢いをなくしつつ、止まった。
「うあああああああ!!」
「なんだとーーーーー!!」
「すんませんでしたぁーーーー!!」
「…………」
ごめん、皆。
そこには1とルーレットの針が指されていた。
「ふむ、まさか少年達にそんな趣味があったとはな。おねえさんびっくりだよ」
「俺だって好きでこんな格好してるわけじゃないやい!」
「まったく、同感だな」
「くそっ、体が苦しいぜ」
「はぁ……」
鈴や小毬さんに頼むわけにはいかないので、妥当な点で来ヶ谷さんに頼むことにした。
まぁ、カメラをそのまま持っていかれたら終わりだけど。
恭介はヤケになっているし、謙吾は仕方なくと言った顔だし、真人は服のサイズが合わないのだろうきつそうだ。
「理樹君。似合っているぞ」
全然嬉しくないけどね。
ひらひらと動くたびにスカートが上下に動く。
あんまり長くないため、激しい動きは出来ない。
カシャっとシャッターが切られる。
「では、これは貰って行くぞ」
そういって来ヶ谷さんは僕たちと逆のほうへと走っていく。
「お、おい! 約束が違うぞ。来ヶ谷!」
「くっ、あれを取り戻すぞ!」
「筋肉の出番だぜ!」
「って、この格好で行くの!?」
僕の言葉が聞こえないのか三人は女子の制服を着たまま来ヶ谷さんを追いかけて行った。
どうなっても知らないよ?
僕は踵を返し、自分の部屋に戻ろうと足をそちらに向ける。
何事もなく、部屋に戻れたので着替える。
制服は折りたたんでそこにしまっておこう。
また、恭介がやろうとか言い出すかも知れないしね。