棗先輩! これ家庭科の時間に作ったのですで食べてもらえませんか?」
「ああ、分かった」
ぱくっと一口で食べる。
「おお、うまいな」
「ほんとですか?」
女の子は嬉しそうな表情をしている。
なぜか悔しい。

私のときは素っ気無いのにどうして他の子に優しいの?
私の恭介は付き合っているはずなのに……。
心がちくりと痛む。
なんだろうこの気持ちは……
苦しい、苦しいよ。
恭介……。


恭介と私は付き合っている。
付き合っていると言っても人には口外していないため気づいていない人のほうが多いだろう。
そのためか恭介になにかしらアクションを起こす子が多い。
今日もこれで10人目だ。
道行く人が私のことを変な目で見ている。
それもそうだろう。
私は恭介の教室の外(廊下)で覗き見ているのだから……。

ああ、あんなにも子供っぽく食べちゃって可愛い。
口に付いてるカスを取ってあげたい。
私はもう恭介に犯されていた。
もはや、恭介じゃないと満足感は感じられない。
ああ、恭介……

「それでは、棗先輩」
「ああ、じゃあな」
後輩に別れを告げて恭介は席を立つ。
そしてこちらに向かってくる。
私は慌てて逃げようとする。
しかし、彼はもう私の後ろに回りこんでいた。
いつのまにっ!?

「佳奈多。覗き見はやめてくれっていったろ?」
「べ、別に覗いてなんかいませんけど」
声が少し裏返ってしまう。
どうやら私は動揺をしているらしい。
「はぁ……。ま、そこが可愛いとこなんだけどな」
「なっ」
どうしてこの人はそんな恥ずかしいことを簡単に言えるのだろうか。
私は顔がトマトのように真っ赤に染まっていくのが分かる。
「焼き餅か?」
ニヤニヤと嫌な笑いを込めながら言ってくる。
私はむっと顔をしかめる。
「わ、悪かったわね。あなたがそんなのだから私は困っているのに……」
焼き餅を私は焼いていたのだと思う。
そんなことを言われるくらいどうやら私は恭介のことが好きらしい。

「いや、悪くはない。むしろ焼き餅を焼いてくれたほうが愛されてるって感じがして気分がいいからな」
あっはっはと笑いをあげる恭介。
やはり恥ずかしくなってくる。

「きょ、恭介が悪いんだからねっ。私というものがありながら他の女の子とデレデレしちゃって」
「悪かったよ、佳奈多。どうすれば許してくれるんだ?」
それはもう……、
「熱いキスに決まっているでしょう?」
「OK。分かりました」
そして恭介とキスをする。

おおーーっ!!
歓声があがる。
気づいてしまった。
ここは教室の外廊下だ。
人目がいないわけではない。
なので見られていた。

「〜〜〜〜っ!!」
顔が赤くなる。
恭介のほうを見てみると携帯でなにやら誰かと話していた。
「なにを……」
聞こうと思った矢先だった。
リトルバスターズの面々が廊下に集合していた。

「わふー、佳奈多さん」
「お姉ちゃん、やりますねぇ」
「ほう、やるなぁ。佳奈多君」
「やるねぇ〜。かなちゃん」
「やるな。二木」
「おめでとうございます」
「おめでとう。恭介」
「ふ、まあ恭介には筋肉は足りてないがな」
「筋肉は関係ないだろう」
「なんだと!」
「なんだ? やる気か?」

まあむさい二人はほおっておいてメンバーから祝福の言葉を貰う。
なんだか照れくさい気分だ。

「じゃあ、これからは佳奈多もリトルバスターズの一員だな」
「はっ?」
何を言ってるの? 恭介は……。
「おお〜、いいですネ」
葉留佳が相槌をうつ。
「たしかに佳奈多君が入ればもっと面白くなるだろう」
「わ、私はまだ入るなんて……」
そう、私には風紀委員という大事な仕事があるのに。
「たまにはハネを伸ばすのもいいんじゃない?」
直枝理樹が諭す。
私は悪い気分にはならなかった。
「ふ、じゃあたまにだったら参加してあげるわ」

「よしっ! ならこれからもよろしくな。佳奈多」
「ええ、よろしく。恭介」

これからは退屈をしなくてすみそうだ。

それからというもののリトルバスターズの面々にからかわれたことは言うまでもない。

 

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