――コンコン

控えめなノックがするな。
こんな時間に誰だ?

「いいぞ」
あたしは合図をするとガチャと見慣れた姿が目に入った。

「ささみっ!?」

そう、ざざぜがわささみとかいうあたしに付きまとうストーカーだ。
しかし、今日はやけに大人しい。
変なもんでも食ったのか?

「あの……その……」
手をモジモジさせながら話そうとする。
とりあえず入り口前じゃ話せるもんも話せないと思いあたしは気を利かせる。

「とりあえず入ったらどうだ?」
「え?」
きょとんとした顔をしたがやがてゆっくりとした足並みで中へと入っていく。

これが後悔することになるとは思っても見なかった。

「で、なんか用か?」
「……棗さんは好きな人いますの?」
くちゃくちゃ意味が分からん。
「とりあえず……いない」
「そうですの……」
やはりささみの様子が可笑しい。

いつもより目の焦点が合っていないのかポーッとしているようにしか見えん。
やがてまたささみは話し出す。
「私は好きな人がいるんですの」
「そうか……それは良かったな」
どうでもいい話だ。
あたしには関係がない。

「その人は鈍感でどうしようもないんですの。なにかいい案はありません?」
「ない」
きっぱりと言う。
ささみは目をウルウルとさせてこちらを見てくる。
なんで捨てられた猫みたいな顔をするんだっ。
「ない……こともない」
あたしは仕方なく言い直す。
「女は度胸が大事だと馬鹿兄貴が言っていた。勇気を振り絞ればいつか道は開かれると」
「そうですか」
ささみが納得した言う表情をする。
「あとは、超鈍感な奴にはちゅ―をしろと言っていたな」
あくまでたしかだが。

「それで好きな奴の好きなところを言いまくれとも言っていた」
「……」
ささみは下を向いてなにやら考えているようだ。
これで少しは役に立てただろうか。

不意にささみがあたしの肩を掴む。
「どうした? そんな感動したのか?」
ささみは顔を赤く染め、あたしの顔へと顔を近づけていき、唇と唇がぶつかった。

「んー!」
何をされたのか分からなかった。
ささみとちゅーしているのか?
そんな思考が薄れてくるほぼ息が出来なってきた。
しかもささみは舌と舌と絡まそうとしてくる。
なんかやな気分になってきた。
しかしやめる様子はないらしい。

いいかげん息が持たない気がする。
とささみが不意に口を離す。

「あなたのことが好き。……言葉じゃ言い表せないほどに」
なんか今何も考えれないほど、頭がぽーっとしている。
ささみは喋ることをやめず、
「あなたの髪が好き。あなたの肌が好き。あなたの瞳が好き。あなたの手が好き。あなたの脚が好き。あなたの唇が好き。あなたの首が好き。……そしてあなたの全てが愛らしい」
そのまま二人の距離が近づいていく。

二人の唾液がとろーっと言う感じで長い唾のような感じで二人を結んでいる。
ささみはうっとりした感じになっているが、
あたしはファーストキスを奪われたショックが大きかった。
くちゃくちゃショックになってきたのか目から涙が出てきた。

「あら? 棗さん。泣かなくても大丈夫よ。私が今日あなたを快楽に溺れさせてあげますわ」
「な、何を言ってるんだ?」
「さあ、私に全てを委ねて……」

「ふ、ふにゃ〜〜〜っ!!」


今日ささみに純情を取られた。
でもやっている途中は気持ちよかったと思う……。ってなんでこんなことを書かなきゃいけないんじゃぼけーっ!

 

 


「あっ、あんまくっついてくるなっ!」
「あら? そちらが私についてくるの間違いではなくて?」
「ちゃうわっ!」
顔が真っ赤になる。
うみゅ〜、ささみのペースに巻き込まれているな。
どうする?
たしかにアドバイスをしたのはあたしだ。
まさか好きな人があたしだったとは盲点だった。
しかしおんな同士はいいのか?

――すりすり〜っ
「うわっ!」
ささみが頬を頬で撫でてくる。
思っても見なかったので驚いてしまう。
「ふふっ、可愛い反応ね」
「う……」
さらに顔が赤くなる。
次にささみはあたしの後ろに立って抱きついてくる。
ささみの感触がちょくでくるためほわっと一瞬意識がなくなる。
「棗さんは後ろからが最高ね」
首を舐める。
「ひゃっ……」
ささみの体があたしの行動を押さえつけているので身動きが取れない。
結構力強いなささみ。
耳を軽く噛んでくる。
「あう……」
あたしの顔はもう真っ赤だ。
「あら、どうしましたの? お顔が真っ赤ですわよ」
「最近、暑いからな」
「今は冬ですわよ?」
「暖冬だからな、仕方ない」
「ほんとに素直じゃありませんのね」
と言って胸を触ってくる。
「や、やめろっ!」
「あら? そんなことをいったらこの前みたいにいじめちゃいますわよ?」
ドクン……。
またあんなことされるのか。
服を脱がされてささみにいいように体を弄られれまくったことか。
「ふふ、まあまたその体に教え込んであげますわ」
「………はい」
断らないといけないと思っている自分とあの快感が忘れなれず体が疼いてきてそれを受け入れたいと思う自分がいる。
そんな自分が嫌いだ。

 

 

 

「ささみ……」
「あら? どうしましたの。そんなウルウルさせた目をさせて」
「お前が悪いんだぞ」
「何がですの? 私がなにかしまして」
「お前があたしにあんなことをするから」
あたしはささみの後ろに回り抱きつく。
「どういう風の吹き回し?」
ささみは分からないという顔をしている。
「あたしは……」
そのあとの言葉が続かない。
その後の言葉を言うともう後には引けない気がする。
でも、もうあたしは我慢が出来なかった。
「あたしは……我慢できないんだ」
「だから何がですの?」
あくまでささみはとぼけるらしいな。
それならあたしから行動してやる。
「ん……」
ささみの顔をこちらに向かせちゅーする。
恥ずかしいがささみはもう何回もあたしにやっているため行動を起こすのはそこまで難しくなかった。
もちろん唇に……
そんままささみに手を伸ばそうとしたら逆に回りこまれた。
攻めと守りが逆になった。
あたしはなすすべもなくささみの思いどおりに踊ろされた。

「鈴。あなたが私を攻めようなんて100年早くですわっ」
「ふみゅ〜」
そのままいつもの同じようにささみにあたしの恥ずかしいところを攻められた。
今度こそリベンジを果たしてやる。
まってろよ、ささみ。
……でもその前にこの快感は最高だ。
モンペチ以上の快感に襲われる。
やっぱたまらん。
ささみぃ……もっとくれぇ……。

 


教室での出来事だった。
いつものようにささみのいる教室へと向かう。
♪♪〜〜〜〜
あたしはご機嫌な状態でささみに話し掛けようとする。

「……もうあなたは用済みよ。私の前に現れないで頂戴」
ぴしゃりとささみに拒絶の言葉をかけられる。
その言葉を聞くのが一番恐れていたことだった。
あたしはささみに調教された(性的なことも含めてだ)
もうささみなしでは生きていけないほどだ。
だから……だから……。
「捨てないでくれ……」
あたしは小さく呟いた。
涙が目に溜まっていく。
「なにを言いましたのこの雌ネコは」
「え……?」
ささみが吐き捨てるように言う。
あたしが雌ネコ?
どうしてそんなひどいことを言うんだ?
あたしはただささみに捨てられたくないだけだ。
「ほら、捨てられたくないのなら足をお舐めなさい」
捨てられたくない……
そんなあたしの思いだけがあたしを動かしていた。
ペロペロ……
人が見ている……そんなことは気にしなかった。
ほとんどの奴が気持ち悪いものを見るような目であたしを見てくる。
どうしてそんな目であたしを見るのか?
あたしは可笑しいことをしているのか?
「あら、ほんとに舐めましたわね。気持ち悪い」
う……。
やっぱり舐めたら気持ち悪いのか?
「やっぱりあなたは用済みね。もう私の前に現れないことね」
「や……」
いやだっ!
ささみに嫌われるのは一番いやだ!
どんだけ気持ち悪いと言われてもいい。
どんだけ罵られてもいい。
だから……だから……。
「……あたしを捨てないでくれ」
搾り出せたのがこの言葉だけだった。
涙だって流れていてもうくちゃくちゃな顔だった。
クラスの奴は差別な目であたしを見る。
もちろんささみもだった。
「さようなら」
ささみが冷たく吐き捨てるように言い教室を出て行った。
「うう……」
寂しい。
ぽっかりと穴が開いてしまったようだった。
その穴はもう元には戻せない。
それくらいあたしはささみに依存していた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜っ!!」
あたしは大声で泣いた。
この声が枯れるまでずっと、ずっと……。


――ささみに捨てられた……。

その事実があたしに圧し掛かる。

このぽっかりと空いてしまった胸の穴はもう元には戻せない。

次の日の朝、鏡を見るとすごい表情のあたしがいた。
目は泣き腫らしたように赤く腫れぼったくて、顔はやつれたように生気がないように見える。
「はぁ……」
あたしはどうしてもささみと過ごした短い時間を思い出してしまう。
そしてまた目から涙が出てくる。

学校は一応行く。
しかし授業には出ない。

ぼーっとどこかで時間を潰して部屋へと戻る。
ルームメイトはこちらをチラチラと見てくるので見返すと慌てて視線を避ける。
……まあ当然だろう。
今のあたしはそれほどまでにひどい有り様だったから……

その日、大声で泣いた後、きょーすけたちが来て説明を他の人たちから受けていた。
で、あたしを当然のように慰める。
……でもそれが今のあたしには気に食わなかったのだろう。
反発をしてあたしに構うなと言ってしまった。
でもきょーすけは、
「今は話したくないのなら話さなくてもいい。……でもな鈴。俺たちはいつでもお前の味方だからな」
そういって皆頷く。

それがさらにあたしに火をつけてしまった。
「うっさいっ! きょーすけや理樹たちにあたしの悲しみが分かってたまるかっ!」
だっと教室から出る。
ふと後ろを振り返る。
誰も追いかけてこない。

「はは……」
所詮あたしの存在なんてこれっぽっちなんだ。
そう理解した。


そして今に至る。
あたしは空き教室で一人寂しく佇んでいた。
もう、一週間はリトルバスターズの連中とは話していない。
今もどこかで楽しくやっているのだろう。

あたしなんてどうでもいいんだ……

「死のう」

ふらふらと屋上への階段を上っていく。
鍵がかかっていたが小毬ちゃんがやっていたとおりにやったら開いた。

風が出ていて少し肌寒さを感じる。
それも関係がなくなる。

……だって今からあたしはここから飛び降りるのだから。

フェンスをよじ登り上から下を見る。
結構高さがある。
……少し怖い。
でもあたしにもう居場所はない。

じゃあな、リトルバスターズ……。
じゃあな、きょーすけ、理樹、真人、謙吾、小毬ちゃん、クド、来ヶ谷、みお……。
そして、大好きだったささみ……。

「さよなら」
一言だけ呟いてあたしは飛び降りる。

痛みはない。
即死だった。
これでいいんだ。
きっとこれで……
 

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